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Norway cancels Elsevier & US universities following suit
ノルウェーは、学術論文へのアクセスに関わる論議を経て、エルゼビア社との契約をキャンセルしました。エルゼビア社がその提案において学術論文へのOAを十分に認めなかったため、ノルウェーの研究機関のコンソーシアムとなる "Norwegian Directorate for ICT and Joint Services in Higher Education and Research (UNIT)" は、同社からのディスカウント価格の提案をはね除けました。
「エルゼビア社からの提案は、ノルウェーの学術論文OAへの要求を全く満たしません」とUNITは声明にて述べました。「提案にはまた、購読料の代わりに、論文出版の論文掲載料(APC)を機関が負担する方法についての言及がありません。このためエルゼビア社との2019年の契約は、更新しないこととなりました」。
ノルウェーの機関は、所謂「Read and Publish」契約を要求していました。現状では多くの機関が、1) エルゼビア社の出版する2500誌あまりの学術雑誌を読むための購読料と、2) 機関の研究者が執筆した論文をOAとするための費用の二つを負担しています。「Read and Publish」契約ではこれらのコストを一つにまとめて〔機関が負担をし〕、機関研究者の執筆した論文を全て、即座にOAで出版します。
UNITの発表に対してエルゼビア社は、ノルウェーのリクエストが「一つのサービスの対価に対して、二つのサービスを要求するようなものだ」と述べています。またノルウェーが契約更新をしないという判断をしたことについて、「誰から見ても残念な判断である。特に研究者にとって残念である。なぜならエルゼビア社は支払いなしで、サービスを無限に継続することはできないからである」と指摘しています。ノルウェーは昨年、約1000万ユーロを購読料として負担しました。
オスロ大学のウェブサイトによると、エルゼビア社との契約更新をされなかったため、ノルウェーの研究者は、2018年まで出版された論文にしかアクセスがありません。エルゼビア社の学術雑誌には引き続き、論文出版できます。
スカンジナビア諸国では、ノルウェーの他にも同様の判断をした国が既にあります。スウェーデンのコンソーシアムは昨年夏、「Read and Publish」契約に関する同様の議論を経て、エルゼビア社との契約更新を見送りました。「学術出版に関する現在のシステムは変わらなくてはいけません。〔出版社が〕OAへの持続可能な移行に向けての我々の要求に向き合ってくれないのであれば、我々に残された道は契約解消のみです」とストックホルム大学の学長で、コンソーシアムの長であるAstrid Söderbergh Widdingは、スウェーデンのナショナルライブラリーのブログ「OpenAccess.se」に述べました。
同様の議論を経て、大規模研究機関であるマックスプランク研究所を含む多数のドイツ学術機関が、エルゼビア社の学術雑誌に対してアクセスを失いました。また数週間前、カリフォルニア大学も数ヶ月の交渉を経て、エルゼビア社との購読契約を解消しました。
[The Scientist] (2019.3.13)
Norway Joins List of Countries Canceling Elsevier Contracts
国単位でエルゼビア社との購読契約を解消する国がまた一つ、という感じですね。私の知る限り、ドイツ、台湾、ペルー、スウェーデン、ノルウェーが契約を解消しています。ここで大事なのは、この契約解消が単に購読料の値下げを求めてなされたのではなく、「Read and Publish」契約という、所謂OAへの「移行契約(transformative agreement)」を求め、その要求が満たされず、契約解消に至っているということです。
この記事の説明にもあるように、これまで学術機関は学術雑誌の「購読料(Read分)」を負担してきました。一方で学術機関の求める、学術論文が全てOAで出版され閲覧可能である「完全OA」の状態においては、購読料を負担する機関はなくなるので、論文著者の負担する「論文掲載料(APC)(Publish分)」で、学術雑誌の出版コストは賄われる必要があります。「Read and Publish」契約(=「移行契約」)は、「購読料(Read分)」負担から「APC(Publish分)」負担に移行する過程の契約方式で、つまり完全OAになるまでの時限的なものです。プランSでは、「移行契約」は2021年までに締結し、契約期間は3年を越えてはならないとしています。
「移行契約」は「Read and Publish」契約と表現する場合も、「Publish and Read」契約と表現する場合もあり、前者は購読料ベースで、後者は論文掲載料ベースの契約額なのであるといった説明をする記事もあるのですが、いずれにしてもこの詳細は不明で、それぞれの機関が手探りで契約交渉を行っているものと想定されます。プランSは、ESAC(Efficiency and Standards for Article Charges)というサイトと協力し、移行契約の登録と詳細の確認を可能とするとしています。事例がまだ少ないので十分な情報量とはなっていませんが、参考にすると良いと思われます。
ESACサイトの「移行契約のワークフロー」では、1) 移行契約の対象となる機関の著者と論文の特定と確認、2)(研究ではなく)APCを助成した機関の謝辞への明記とメタデータへの登録、3)(研究者ではなく)機関への請求と報告を、出版社および大学が協力して行う必要が指摘されています。これまでの購読契約は雑誌単位で行われていたのに対して、移行契約は論文単位で費用見積もりが必要なため、新たなワークフローが必要とされています。
【ESACサイト】
移行契約はいくつか試行されており、たとえばエルゼビア社とオランダ、ワイリー社とドイツ、ケンブリッジ大学出版とイギリス、英国王立化学会とスイス、スペイン、マックスプランクなどが、ESACの事例には挙げられています。米国の機関が一つも挙げられていませんが、英国王立化学会とMITは移行契約を締結しています。またカリフォルニア大学がエルゼビア社との移行契約を求めて、交渉決裂し、本年3月にエルゼビア社と契約解消としたことは記憶に新しいです。
それにしても、米国はMITとカリフォルニア大学の名前しか聞かないのですが、カリフォルニア大学とエルゼビア社との交渉決裂を受けて徐々に、この考え方に賛同し、この方向で契約交渉をしたいと意思表明する米国大学が出てきました。以下の記事には、バージニア大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ミネソタ大学、デューク大学、アイオワ州立大学の名前が挙がっています。また私のワシントン大学(シアトル)の友人からは、ワシントン大学の図書館も同様の意思表明をしたと連絡がありました。
米国は全国で足並みを揃えることは基本的にはありませんが、図書館業界は横で繋がっているので、このInside Higher Edの記事にあるように、雪崩がおきる可能性があります。
[Inside Higher Ed] (2019.3.27)
The Beginning of the End for the 'Big Deal'?
[University of Washington Libraries] (2019.3.7)
For the public good: our values in a changing scholarly communication landscape
個人的にはこの「移行契約」や完全OAになった場合の論文著者負担のAPCのみで出版コストを賄うことが現実的なのか、少し懐疑的です。
マックスプランクの提唱するOA2020の計算では、年間200万本の論文が生産されており、研究者一人2000ユーロのAPCで賄えるはずなのだから、出版社は総購読料収入76億ユーロではなくAPC収入40億ユーロで出版を間に合わせるべきと言っているのですが、よくよく考えてみるとこの計算、世界のアカデミアしか入っていないのですよね。一方で、世界で学術雑誌を購読しているのはアカデミアだけでなく、企業や政府系の図書館なども購読しているはずで、製薬会社や製造業を考えると、これらから得る収入の方がアカデミアから得る収入より大きいのではないでしょうか?他方、学術論文が全てOAとなったら、企業や政府等からの購読料収入もなくなり、一方でこれらセクターは論文はあまり執筆しないので、そこは出版社にとって大きなロスになるはずなのです。私が出版社だったら、企業や政府からの購読料収入を失わないように、何が何でも購読料モデルを死守しようとするように思います。
また、企業や政府セクターを考えずアカデミア内のみの計算であっても、研究者からの20万円程度のAPCで学術雑誌が賄えるのか、またそもそも研究者がこの額を負担しきれるのかも相当微妙なように思います。しかし、世の中がこの流れで突き進みつつあるので、また、この方向で突き進めば少なくとも学術情報を、アカデミア内のみならず、世界万人と共有することができるので、日本もこの「移行契約」にチャレンジする必要があるのでしょう。日本の研究者の学術論文がOAとなり、世界においてヴィジビリティが向上することは、日本の研究力向上のためにも極めて有益です。
日本で電子ジャーナルの交渉を行っている図書館コンソーシアムJUSTICEは3月5日付けでOA2020に向けてのロードマップを示し、2019年に新しいOA出版モデルの試行、2020年にはその展開をすると宣言しました。
新しいOA出版モデル(=移行契約)では、機関から支出されている論文掲載料(APC)の正確の確定が必要なので、これができるように、学内各部署、協力したいものです。研究者からの論文投稿・掲載をした旨の報告、財務会計システムにおける反映、研究協力部における確認、大学図書館による購読料の論文掲載料への振替、大学執行部における舵取りなどをが必要となってくると想定されます。
大学図書館コンソーシアム(JUSTICE)
「購読モデルから OA 出版モデルへの転換をめざして~JUSTICE の OA2020 ロードマップ~」(2019.3.5)
船守美穂
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