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EUA recommends full open access in 2020
欧州大学協会(EUA)において、「2020年の完全OAに向けて―大学執行部および各国学長協会への目標と提案」(Towards Full open Access in 2020 -- Aims and recommendations for university leaders and National Rectors' Conferences)報告書が2017年6月にとりまとめられました。
同報告では、「研究成果の出版と流通(publication and dissemination of scientific outcomes)」を研究活動の重要な一部であると位置づけた上で、その学術情報流通が近年複雑となり、また価格高騰に見舞われていること、これが研究成果の完全なオープンアクセス(OA)の実現により解消可能であるとしています。
EUの"Amsterdam Call for Open Science" (2016)で掲げられた2020年までの完全OA実現には、あらゆるステークホルダーの一致団結した協力と、欧州および各国レベルでの政治的サポートを必要とします。
EUAが行った過去の調査によると、各国の大学が戦略および実施レベルにおけるさらなるガイダンスを必要としていることが判明したため、本報告は2016年2月に取りまとめられた「学術出版のOAへのEUAロードマップ」をさらに具体化しました。
【オープンな出版システムの目標】
完全なオープンアクセス(OA)が2020年までに実現すると、シームレスで透明な学術情報流通(論文の出版と流通を含む)が促進され、知がアカデミアおよび、それを超えた一般社会においても流通するようになる。
アカデミアは自身が輩出する知に対する「科学的主権('scientific sovereignty')」を取り戻す。このようなオープンシステムは、研究を促進し、社会を利する。
オープンな学術情報流通は以下を満たすことを期待する。
- ・ 学術の進展のための査読プロセスの質を保証し、研究者のキャリアのために必要な保証を与える。
- ・ 著者と機関が著作権を保持し、無制限に閲覧可能、かつオープンライセンスとコンテンツをマイニングする権利により情報のユースとリユースが可能である。
- ・ 出版社と学術機関との間で平等な負担・利潤関係でサービスが実現される。負担には、研究者の研究成果輩出および査読の労力も含める。これにより学術機関、助成機関、および出版社は、特に多国籍の交渉において、研究のための公的資金をより効率的に利用できる。
【提案】
- ■ 学術出版のOAへの移行
学術出版の完全かつ即座(論文出版と同時)のOAへの移行は、可能な限り短期間に、理想的には2020年までに実現しなければならない。 - ・ グリーンOAとゴールドOAはそれぞれに利点があり、いずれも追求されるべきである。その他のハイブリッドOAなどは、重複した負担(購読料および論文出版料APC等)とならないことに留意されるべきである。
- ・ 学術出版における価格透明性は、譲れない絶対条件である。
- ・ 政府および助成機関は、OAへの移行をより支援すべきである。
- ■ OAに向けての機関の対応
- ・ 機関の執行部は、完全OAの実現に重要な役割を果たす。
- - オープンな学術出版のためのプラットフォームの開発またはリンク付け。
- - 機関におけるOAポリシーの設定と実施。OA活動が適切に評価されることにより、論文および研究データのOAが促進される環境を醸成する。
- - 機関における報酬やコンプライアンスの設定により、研究者にOA出版に対するインセンティブを与える。
- - 国をまたがってOAが促進されるための法的障壁がなくなるように、政府および助成機関に働きかける。
- ■ 研究者の動員と人的資本開発
- ・ 完全OA実現には、全研究者の動員が必要となる。これには確実なインセンティブと報酬システムが必要である。
- ・ 全研究者において、OAに関する認識を高める必要がある。
- ・ OAに適した政策が実現するには、大学および国レベルで新たなコンピテンスが必要となる(出版社とのビッグディール交渉、著作権やデータ保護の法的関係、プラットフォーム管理、研究データ管理、教職員や学生の研修全般)。
- ■ 研究評価システム
- ・ 研究評価システムは、オープンサイエンスの多様な活動を評価するものとして発展し、学術雑誌のインパクトファクターへの依存は縮小する必要がある。
- ■ 研究データ管理(RDM)
- ・ 機関はRDMおよびテキスト&データマイニング(TDM)についてのキャパシティを開発する必要がある。
- - RDMに関わる明確なガイドラインとなる機関のポリシーを確立する。
- - メタデータを公的に利用可能とする。
- - RDMのための機関のキャパシティを開発する。
- - データをデポジットするための法的助言、トレーニング、インセンティブを研究者に設け、TDMの実践を開発する。
- ■ 出版社とのビッグディール交渉
- ・ ビッグディール契約は、負担額および情報の利用・再利用の観点において、学術機関の現在および将来の要求を守るものでなければならない。
- - 学術雑誌の購読料およびAPC関連のコスト(ハイブリッド・ジャーナル含む)は、科学システムにおける総出版コストの一部である。
- - 契約期間中および契約終了後における学術雑誌の無制限の利用および、長期保存とアクセスのために国レベルのプラットホームにコピーを移行できることは、必要である。出版社の破産や企業買収、契約違反の際に特に重要である。
- - インハウスのアルゴリズムとソフトウェアでTDMを実施できる能力(権利)は、契約に含まれるべきである。
- - 論文を機関リポジトリにデポジットし、TDMを制約なしにできるようなオープンライセンスは、交渉し、新しい契約に含めるべきである。
【今後の展開】
完全OAを2020年までに実現するためには、全ステークホルダーが協力する必要がある。欧州各国の多様な経済的、組織的状況および多様な分野の研究者のニーズを鑑みるに、これはAPCおよびゴールドOAのみを追求することは現実的ではなく、ゴールドおよびグリーンOAを共存させる必要がある。
オープンで透明な知的交流環境が実現する上で、公的資金による持続的OAを保証する大規模な経済モデルが見いだされることは、極めて重要である。
EUAは、メンバー機関が研究成果(査読付き論文と研究データ)のOAに移行できるように支援を続ける。OA学術雑誌の観測所と、ベストプラクティスと協力のためのプラットフォームを創設予定である。
[European University Association] (2017.7)
Towards Full Open Access in 2020 -- Aims and recommendations for university leaders and National Rectors' Conferences
欧州大学協会(EUA)は、欧州における大学等の声をEUに伝え、またEUレベルの動きをメンバー機関に伝達する機関です。欧州各国の大学協会あるいは学長協会の多くはEUAのメンバー機関となっていますが、そのあいだに上下関係はありません。つまり各国の大学協会がEUAの決定に従う必要性はありません。各国の大学協会や学長協会はそれぞれの国においてメンバー大学の声を当該国の政府に伝達したり、逆に政府や社会における動きをメンバー大学に伝達する役割です。
この6ページ程度の報告書をここまで訳す必要はなかったのかもしれませんが、欧州大学協会においてこれだけ具体的に、学術論文および研究データのオープンアクセス(OA)について、方向性や検討課題を列挙していることを実感していただきたく、(多少簡略にしていますが)全体の要点を翻訳しました。
昨日ドイツの事例で報告したように、欧州では学術雑誌の高騰に対していくつかの国が具体的なアクションを開始しており、またEUのHorizon2020でも学術論文や研究データ管理のOAが追求されるなど、動きが実質的になっています。一方、欧州の多数の小国においてはOAへの対応状況や情報の感度においても差が大きいことから、このような報告書で48のメンバー機関の認識を高める努力がなされたと思われます。
日本においては、学術論文のOAについては徐々にJSTやJSPSからの要求により日本の学術界にも浸透してきていますが、これが学術雑誌の購読料の高騰や、研究者が負担しているAPCとの関連で認識されているかというと危ういものを感じます。また、本報告書には随所に、研究データ管理(RDM)や研究者評価、学術論文および研究データをテキスト&データマイニング(TDM)できることの重要性に触れられていますが、これについて日本で議論されているのは聞いたことがありません。
ましてや、日本における国公私立の大学協会において、これだけ実質的な報告書やポリシー提案ができる状況にはないと思います。
先日エルゼビア社がBepressという米国大学の機関リポジトリのプラットフォームとなる企業を買収し、これまで買収したSSRN(社会科学プレプリントサーバー)やMendeley(個人の論文管理プラットフォーム)、研究メトリックス企業Plum Analyticsなどと合わせて、オープンな学術情報流通の制覇に大手をかけたというニュースが世界を駆け巡りました。実際、学術情報流通の上流から下流まで、つまり研究実施段階から引用数の管理、論文の出版とリポジトリへのデポジットまで、エルゼビア社が研究者のワークフローのあらゆる側面に関わるようになっています。
エルゼビア社は、このようにすることで研究者の研究活動を円滑にするサービスを提供すると述べていますが、エルゼビア社は一方で学術情報流通のコスト引き上げ(購読料の値上げおよび高額なAPC)の張本人であることもあり、学術界は、大学図書館業界を中心に、危機感を露わにしています。
エルゼビア社はこの買収のプレスリリースにおいて、同社を「グローバルな情報アナリティクス企業(Elsevier, the global information analytics business)」と位置づけており、自身をすでに出版社とはみなしていません。
早晩、世界のアカデミアの研究活動は全てエルゼビア社のプラットフォーム上で行われ、行動を制御されるようになると予想されます。ますますインパクトファクターや引用数などの数値化が進み、それに踊らされ、EUA報告書の述べる「アカデミアが主権を取り戻す」からほど遠い状況となりそうです。
[Inside HigherEd] (2017.8.3)
Elsevier Expands Footprint in Scholarly Workflow
一方では、数学の学術雑誌Journal of Algebraic Combinatoricsのエディター達(four editors in chief)は、その出版元であったシュプリンガー社から決別し、新たな、オンラインのみで完全にOAのAlgebraic Combinatoricsを創刊すると、7月末に発表しました。シュプリンガー社の同雑誌に対する高額な価格設定に対する反発のための行為で、新たに立ち上げる雑誌は可能な限り無償で運営したいとしています(立ち上げ当初はフランスのOAイニシアティブCentre Mersenneからの財政およびインフラ面の支援を得ます)。
シュプリンガー社は旧雑誌を維持するため、新たにエディターを雇用すると表明していますが、現エディター4名は全員、シュプリンガー社との契約が切れる2018年1月以降、新雑誌に移行するとしています。
2015年には言語学でもLinguaという雑誌が同様の判断でエルゼビア社から決別し、GlossaというOA雑誌を立ち上げました。
こうした学術雑誌レベルの反発は微力ながらも、積もり積もれば商業出版社への圧力となっていきます。EUAの報告にもあるように、大学協会や学術界全般、助成機関、政府の力を結集させ、アカデミアにおける自由闊達な知的交流を復活させたいものです。
[Inside HigherEd] (2017.7.31)
Math Journal Editors Quit for Open Access
船守美穂
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