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Many students need remedial courses ― $ 7 billion needed in 2014

米国2014/15年度における、大学準備の整っていない学生を対象としたリメディアル教育を、調査対象となった44州911校(2年制、4年制大学)の96%が実施し、56万人の学生がこれを受講。これら学生を対象とした学生ローンや奨学金が70億ドルに上ることが、Hechinger Reportから発表された全米調査報告書により判明しました。

リメディアル教育を必要とする学生を判定する方法(プレースメントテスト、高校の成績、SAT/ACT等)は州や大学によって異なり、また成人学生と初めて大学に入学する学生(first-time students)を区別するか等も異なるため、州横断的な客観的な比較はできませんが、たとえばメイン州、ニュージャージー州、アルカンザス州などにおけるリメディアル教育を必要とするfirst-time studentsの比率は40%以上に上ります。

2012年にComplete College Americaが実施した調査では、2年制大学の学生の半数近く、4年制大学の学生の約2割がリメディアル教育が必要と判断されました。更に、これらリメディアル教育を受講した学生のうち、2年制大学では4割近く、4年制大学では25%の学生が、リメディアル教育を修了することすらできなかったことが判明しています。

リメディアル教育は、(高校で学習してから日がたっている)成人学生のためのものであるという理解が一般にありましたが、first-time studentsの受講の比率も数割に上り、高校で成績優秀("A"ばかりを取得)でもリメディアル教育が必要と判定されることも多いことから、高大接続の必要性が拡大していると言われています。

このためたとえば一部の大学では、高校と連携し、リメディアル教育を高校で行うようにしています。Baltimore City Community College(BCCC)はこのようにして16あったリメディアル教育科目を12科目に縮小しました。
また正規科目(75分)の直後に、同じ教員による補講(75分; 学生の約半数が受講)を実施するという試みも全米250以上の大学に拡大しています。
自分のペースで学べるオンライン教育版のリメディアル教育も試行されています。

[Education Dive] (2017.1.31)
Remedial courses cost $7B in 2014

[Hechinger Report] (2017.1.30)
Most colleges enroll many students who aren't prepared for higher education

このHechinger Reportは、バルチモア・カウンティのコミュニティカレッジを統括するKurtinitis学長の言葉を借りて、リメディアル教育に関わる費用は意味のあるもので、喜んでするものであると結んでいますが、
"It's an expense we incur gladly," she said. "It's really an investment in retaining students who are now prepared at the college level."

本当にそうなのでしょうかねえ・・・。学生の数割のレベルでリメディアル教育が必要なのであれば、初等中等教育あるいは高等教育における学習内容を根本的に見直す必要があるのではないでしょうか・・・。
少なくとも学生の半数近くがリメディアル教育を必要とする2年制のコミュニティカレッジについては、もう少し学習内容を高校寄りに近づけた方が良いように思います(といっても、これらコミュニティカレッジは4年制大学への編入学のパスとなっているため、学習内容のレベルを早々に引き下げる訳にもいかないのですが・・・)。
いずれにしても大学進学率が上昇し、高等教育が義務教育のようになってきた時代において、少数のエリートを対象としていた教育内容のままでは限界があるというのは、日本も同じでしょう。しかしこの記事では、大学1年生の入門科目(English101や大学数学)の前に3段階のリメディアル科目が用意されてある事例などが紹介されており、高校と大学の間のあまりの隔たりにげんなりしてしまいます・・・。初等中等教育にももう少し頑張ってもらわないと、大学ばかりがツケを払わされ、国を支えていくべき人材の育成にも支障が生じそうです。

ちなみに記事の中程にあるComplete College Americaという、ルミナ財団のもとで米国におけるなんらかの高等教育学位取得率を現行の4割から2025年までに6割とする目標を推進するNPOは、「リメディアル教育を受講する学生は、その他の一般学生に比べて、卒業できる確率が遙かに低い。だから、リメディアル教育で学習支援を行うことは廃止して、本科目にサポーター等を重点配置して乗り切らせるべき」といった方策を複数の州と行っており、一部の州ではリメディアル教育を実施すること自体が禁じられています。
州知事側は、深刻な大学中退率の上昇に対して手を打っているというポーズができるため、この方策に喜んで乗っているのですが、大学の現場では、リメディアル教育を必要とする学生にリメディアル教育を受けさせないのは、大学を卒業できるチャンスを狭めるだけであると反発しています。Complete College Americaは、リメディアル教育は大学が片手間でやるため、学生に十分な教育効果を上げていないから、この方が効果的なのだというのですが、 対象としている学生層は、(家庭環境など種々の要因により)学力不十分な学生たちですから、本科目においてサポーターを利用するにしても、リメディアル教育を実施するにしても、厳しそうだなあと感じます・・・。

船守美穂