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Harvard examines adaptive technology in a MOOC ― Does it work out?

ハーバード大学が、同大学が制作した"Super-Earths and Life"というMOOCについて、TutorGen社の開発するSCALE(Student Centered Adaptive Learning Engine)というアダプティブ・テクノロジーを導入し、これを適用した被験グループの方が、適用しなかった対照グループより効率的に学習ができるということを発表しました。

この技術は、問題の提示においてのみ、つまり、学習者の理解(問題の正答状況)に応じて次ぎの問題が提示されるというところにおいてのみ用いられました。
被験グループの方が対照グループより、「1つの問題についてトライする回数が多い」という結果が出ました。他方、「解答した問題の数」は、被験グループの方が対照グループより少ないという結果が出ました。
被験グループは、自身の理解度に応じた問題が提示されるため、より忍耐強く1つの問題に取りかかる一方で、効率的な問題提示がなされるため、より少数の問題で済むと理解されます。
なお、問題の正答率や成績、単位取得については両グループの間には差が見られませんでした。
(注:そもそも実験開始前後の学力判定テストをみると、被験グループ(0.56→0.696)の方が対照グループ(0.698→0.734)より、学力の伸びが見られます)。

つまり、アダプティブ・テクノロジーを導入することにより、学習到達度は変わらないが、より短時間で効率的に学習ができるという結果が得られています。

この実験は科目・問題・被験者・技術等の点で限定的なものであるため、これからより実験を重ねていくとしています。
将来的には、この技術をMOOCプラットホームおよび、ハーバード大学のオンキャンパスで利用されているCanvasというLMSに搭載することで、より大規模に効果的な教育ができることが期待されています。

[Education Dive] (2017.2.2)
Harvard rolls out adaptive tech for MOOC offerings

[Harvard University] (2017.2.1)
Designing Adaptive Learning and Assessment in HarvardX: Collaborative Project by Harvard University and TutorGen

ハーバード大学のこの結果はとても謙虚なかたちで発表されており、技術の効果を一つ一つ確認しながら進めていくと発表されています。用いたTutorGen社のSCALEというアダプティブ・テクノロジーも、他のKnewtonなどの一般に出回っている技術と違い、全てを機械に判断させるのではなく、人によるインプットやコントロールの多いものを用いているようです。わざわざ、「我々はブラックボックスの技術は使っていない」と明言してあります。
まあ、被験グループと対照グループの初期値として、学力が異なる集団となってしまっているところにそもそも問題があるように感じるので、今回の実験結果自体の信憑性は微妙なところですが、注目したいのは、これが学術論文としての発表ではなく、ハーバード大学公式のOffice of the Vice Provost for Advances in Learningのホームページにおける発表であるという点です。

ハーバード大学は(MITもですが)、MOOC元年の2012年の翌年に、このような学習を促進するためのオフィスをプロボスト室のもとに設置しました(担当副学長はPeter Bol)。MOOCなどのデジタル教育の促進とともに、アクティブラーニングなどの教育学習方法などの促進も行っています。この室は、このテーマに関わる教育プログラムや研究開発の大学イニシアティブを複数走らせているほか、学内における同様の取り組みに助成等を通じてサポートしています。
今回の実験は(おそらく)ハーバード大学の学生ではなく、一般のMOOC受講者対象ですが、今後、ハーバード大学の学生の学び(residential learning)にも拡大していく可能性への言及は、踏み込んだ内容かと思います。
実際、このオフィスのホームページのAboutの冒頭には、ファウスト学長(歴史学)からの「I feel [this] is a magnificent opportunity, but it is also a big responsibility for us to set a standard for online learning that upholds the most important aspects of higher education and its values, and allows Harvard to play a leadership role in shaping how education changes in the years to come.」というメッセージがあり、大学としてのデジタル教育への意気込みと責任感が感じられます。

(私も含めてですが)日本の、特にトップの大学は、オンライン教育やアダプティク・テクノロジーと聞いても「本当にそんなので、学べるのかなぁ・・・」と懐疑的な見方が大きいように感じますが、オンライン教育が全てを解決するわけではないものの、効果的である側面は確実にあるので、その可能性を吟味するという姿勢には学べるところがあるように思いました。

船守美穂