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Russian invasion of Ukraine (1): Initial response of world’s higher education and research institutes

ロシアが独自の自分勝手な理屈で2月24日にウクライナ侵攻を開始してから既に2週間強が経ちます。世界各国がこの世界的な危機への対応に乗り出す中、高等教育・学術機関にも動きが出てきています。それらの動きを紹介したいと思います。

■ MIT、スコルコボ科学技術大学への支援打ち切り表明

ロシアのウクライナ侵攻にいち早く反応したのはMITです。ウクライナ侵攻開始の翌日、2月25日にはすでに、スコルコボ科学技術大学(通称:Skoltech)への支援の打ち切りを発表しています。

発表には、「ウクライナ侵攻というロシアの軍事行動が許しがたいことであるため、大学執行部においてプログラム打ち切りの判断をした」とあります。また、「同大学において素晴らしい同僚であったロシア人の教職員等に対して、このような決断をしなくてはいけなかったことを申し訳なく感じている」としています。その上で、「判断によって直接影響を受けるプログラムのPIと緊密に連携をとり、プログラムの学生が中断なく研究を終了できるように配慮する」とリーフ学長名であります。

なお、リーフ学長は自身も元ウクライナからの避難民であるため、Skoltech学生の研究の継続可能性には配慮したいとMIT学内に向けて説明しています。

[Inside Higher Ed](2022.2.28)MIT Ends Program in Russia

[MIT](2022.2.25)MIT Skoltech Program: Announcement

Skoltechは2011年、ロシアにMITと同様の卓越した工科大学を開学したいというメドヴェージェフ大統領(当時)の強い意向の下、スコルコボ財団の支援とMITの知的支援により、モスクワ郊外に設置されました。初代学長は、MIT工学系の教員Edward Crawley教授でした。初期の講義はMITのキャンパスからリモートで行われました。その後もSkoltechへの大学運営支援は緊密に行われ、こうした協力関係はMITキャンパスにおけるロシア語教育や学生のロシアへの短期派遣の20年ぶりの再開につながりました。

2018年になると、MITのSkoltech支援は、国家安全保障上に問題ある連携としてFBIや米国政府からたびたび指摘を受けるようになり、元スコルコボ財団理事長であり、MIT評議会の一員であったViktor Vekselberg氏の解任にもつながりました。しかし、MITはこの連携の相互互恵性を強調し、2019年、同大学への支援の5年間継続を発表しました。MITは、「MITの分校を世界的に展開する予定はないものの、MITに類似の大学を設立したいという大学を支援するという国際方針を有する」と説明していました。

[GBH](2022.2.25)
MIT abandons Russian high-tech campus partnership in light of Ukraine invasion

[mihoチャネル](2019.2.6)MIT、ロシアの大富豪をMIT評議会から密かに解任

しかしその後も、Skoltechを通じた技術流出やスパイの可能性についての疑惑は続き、米国政府からMITへの風当たりは強いものでした。このような背景から、MITではプログラム継続の可否を数年前から検討していたのでしょう。ロシアがウクライナに侵攻すると、一両日中に、支援打ち切りの判断をしました。

■ ロシアのウクライナ侵攻への抗議

世界では、ロシアのウクライナ侵攻に抗議する声明が多数、発せられています。国際学術会議(International Science Council, ISC)のウェブサイトには、世界の学術機関の声明がまとめられています。日本については、日本学術会議の声明へのリンクがあります。

国際学術会議「ウクライナの現在の紛争に関する声明と資料

世界の大学や学会も抗議声明をそれぞれに発表しています。日本であれば例えば、東京大学や日本ロシア文学会、日本スラヴ学研究会、ロシア・東欧学会が以下のように抗議声明を発表しています。

東京大学スラヴ語スラヴ文学研究室
東京大学総長のメッセージ「ウクライナ侵攻について」および、日本ロシア文学会、日本スラヴ学研究会、ロシア・東欧学会の抗議声明がそれぞれホームページに掲載されました。

教員や学生も抗議のデモ行進等に立ち上がっています。ミシガン大学やプリンストン大学、ペンシルベニア州立大学などでは、侵攻開始数日後の2月中に抗議活動があり、100名規模の教員や学生が集まっています。学生のみの抗議行動も、ヴァンダービルト大学や西バージニア大学、イリノイ大学などで行われています。その他、3月1日時点で、ハーバード大学、スタンフォード大学、ワシントン大学などにおいても抗議活動が予定されています。

一部の教員は、講義において、ロシアのウクライナ侵攻を取り上げ、教室において議論の機会を設けています。学生の多くは、戦争も冷戦時代も知らないため、このような問題に対する思考のフレームワークを有していません。議論を通じて、このような問題に対する認識を高めます。

[Higher Ed Dive](2022.2.28)
How U.S. higher ed is reacting to Russia's invasion of Ukraine

[Inside Higher Ed](2022.3.1)Students Stand With Ukraine

世界の大学の講義を公開配信する、大規模公開オンライン講座(MOOC)のCourseraおよびedXも、ロシアの大学等の開設した講座の配信を取りやめると発表しています。これらのプラットフォームにアクセスしても、ロシアの大学の開設した講座には現在、アクセスができません。これらの講座を受講中であった受講生に対しては、講座の継続・終了ができる手段が提供されるそうです。

なお、両MOOCプラットフォームとも、ウクライナの高等教育機関に対して、サイト上の講座への無償アクセスを申し出ています。戦火中であっても、高等教育の継続可能性を与えたいという考えです。

[Higher Ed Dive](2022.3.8)MOOC platforms shut off access to Russian content

■ 学生の呼び戻し

ウクライナやロシアからの学生の呼び戻しも迅速に進められていますが、すでに困難な状況も生まれているようです。

戦地となっているウクライナからは、留学生が既に脱出不能となっている状況が報じられています。ニューヨークタイムズ紙は3月3日、ウクライナ北東のSumyという都市において、800名以上の医学系の留学生が脱出できなくなっていると報じました。アフリカ系、インド系、東欧系の学生がMedical Institute of Sumy State Universityに留学していましたが、ロシア軍がSumyに侵攻し、鉄道を破壊したため、学生たちは町を脱出することができなくなりました。道路についても、戦車が爆撃などを行っており、危険です。

留学生たちは、大学の地下シェルターに潜んでいますが、壁のハゲ落ちたような場所に過密状態でおり、戦争が現在進行形でそこで行われていることが如実に伝わってきます。ニューヨークタイムズ紙の記事には、現地からの留学生の声が動画で見ることができるので、ぜひ、見てみてください。

[New York Times](2022.3.3)
More than 800 medical students, most African or Indian, are stranded in northeastern Ukraine.

[Inside Higher Ed](2022.3.4)
Hundreds of Medical Students Trapped in Ukraine

[Reuters](2022.2.26)
"You're on your own": African students stuck in Ukraine seek refuge or escape route

ロシアについては、情勢はまだ比較的安定していますが、経済制裁の影響も出ており、各国ともロシアにいる研究者や学生に対して、帰国できなくなる前に母国に戻るよう呼びかけています。一部の大学や国では、学生が帰国のための旅費がない場合、旅費の支給をしている模様です。

[Inside Higher Ed](2022.3.3)Russia-Ukraine War Disrupts Study Abroad

■ 呼び戻した学生の学業継続の取り組み

学生の短期留学は、新型コロナウイルス感染症拡大の下、規模が世界的に縮小していたため、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた者は比較的少なかった模様です。しかし、上記、医学系の留学生のように、開発途上国から学位取得目的で留学をしていた学生は相当数います。これらの学生は母国に帰還することにより、学位取得を中断することになります。また、これらの学生の多くは、医師や看護師など、大学卒業後の職の獲得も念頭に留学しているため、学業中断の打撃は大きいです。

ウクライナに多くの留学生を送り出していたアフリカ諸国では、旧宗主国であるフランスと連携し、これらの学生が帰国後も何らかの形で学業を継続できるようにしようとしています。現在、インターネット上のサイトで、学生の学業のステータスなどを調査し、適切な大学を斡旋しようとしています。

ウクライナには2020年現在、155カ国76,500名の外国人留学生がいたと推定されています。そのうちの15%にあたる、8000名と3500名の学生をそれぞれに送り出していたモロッコとエジプトは、このようなサイトを国単位で開設しています。

近年は、オンラインでの大学講義の受講も容易であるため、このような取り組みに期待がかかります。しかし、戦火を逃れてきた学生の多くは、学籍や単位取得状況などに関する正式な証明書を有していません。また、異なる大学における学業の継続は、元の大学と移動先の大学が双方とも欧州の高等教育質保証枠組み(European Standards and Guidelines for Quality Assurance, ESG-QA)に則っていれば比較的容易なものの、アフリカ諸国の大学については対応が難しい側面もあるようです。一方、ウクライナに学生を派遣していた西欧諸国では、検討がより容易な模様です。

[University World News](2022.3.10)
Ukraine: E-platforms can help Africa's evacuated students

■ ウクライナ人とロシア人留学生への支援

留学をしているウクライナ人やロシア人学生への支援も開始しています。米国には、約5000名のロシア人学生と、約1700名のウクライナ人学生がいます。

米国では、母国の窮状により学費や生活費が負担できなくなったウクライナ人留学生を対象として、緊急の援助資金を提供しています。米国において留学の受入と派遣を取りまとめているIIE(Institute of International Education)が留学生一人あたり2000〜5000ドルの援助資金を提供しており、これまでに約50大学からの応募がありました。これからも複数回、このような資金提供があると見込まれています。

さらに、ウクライナ人学生についてはビザ延長の手続きも可能となってきています。本年5月に学位を取得する学生が、学位取得直後に帰国しなくても済むように、就労に繋がる研修のできるビザなどに切り替えができるよう、複数の高等教育関係の団体が米国政府に働きかけました。

[University Business](2022.3.3)
How is the Russia-Ukraine war impacting international student exchange?

大学においては、ウクライナやロシアからの留学生を対象に、こうした手続きやメンタルヘルスの窓口を提供しています。ウクライナからの学生については、援助手続きに関わる問い合わせ以上に、母国に残された家族や親戚に関わる不安が非常に強くなっていると、大学の国際室担当の職員は述べています。

ロシア人学生については、周囲から反感を買う場面もあるようです。実際、米国の一部の共和党議員からは、ロシア人学生はアメリカから追い出すべきとの発言もあります。しかし、大学側は、これらの学生が母国の政治的なスタンスとは無関係であると主張しています。「これらの罪のない学生たちを母国に送り返したところで、誰の役にも立たない。しかも、これらロシア人学生の多くはプーチン大統領の軍事行動に対し、反対をしている」といった声が上がっています。

高等教育と移民に関わる学長アライアンス(Presidents' Alliance on Higher Education and Immigration)の理事長であるMiriam Feldblum氏は、「留学生は決して地政学的な戦争において取引材料として使われてはいけない。その逆で、留学生は未来に向けてのライフラインである。このため我々は、留学生を非難するのではなく、保護すべきなのである」と語っています。

[Chronicle of Higher Education](2022.2.28)
Expel Russian Students? A Controversial Idea Gets Panned

(所感)

ロシアのウクライナ侵攻に対する高等教育・学術機関の初動対応は、➀ロシアへの抗議、②国民の保護、③国内外のウクライナ人への支援が中心と言えるようです。

次回は、国際プロジェクト等の研究活動における対応についてレポートします。

レポート(2)へ続く)

船守美穂