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Cambridge University Press signs Read and Publish agreement with UK universities

ケンブリッジ大学出版(CUP)は、英国大学の学術雑誌契約交渉窓口となるJISC Collectionsと、Read and Publish契約をすることに合意しました。英国の大学はこれによりCUPにおいて、OA出版へのサステイナブルな移行が可能となります。この契約方式は、大学からCUPの学術雑誌へのアクセスへの支払い〔≒購読料〕とともに、通常は論文著者が学術雑誌に論文をOA出版する際に支払う論文掲載料(article processing charge, APC)を含みます。

英国の大学によってOAへの移行段階が異なるため、この契約では、それぞれの機関にあったペースでOAの段階を進められるようにしました。以下のオプションは、徐々にOA出版を拡大すると同時に購読料の縮小が図ることができるようになっています。

オプション1:Full Journal Collection

  • ・ CUP学術雑誌コレクションへのフルアクセス
  • ・ 購読料は、前年比で毎年4%増
  • ・ 追加費用は無し
    (たとえば、他の出版社から移行してきた雑誌(take-over journals)に対する追加的負担はなし)
  • ・ OAディスカウントは無し

オプション2:OA Light

  • ・ CUP学術雑誌コレクションへのフルアクセス
  • ・ 該当年の購読料について、5%ディスカウント
  • ・ 追加費用は無し(たとえばtake-over journals)
  • ・ OAへのコミットメントは軽め(light)。
    APC見積数(APC numbers in quotation)に対する事前支払いが求められる。
  • ・ APCの15%ディスカウント
  • ・ 当年に〔APC見積数を超える〕APCは全て15%ディスカウント
    (All subsequent APCs at a 15% discount that year)

オプション3:OA Medium

  • ・ CUP学術雑誌コレクションへのフルアクセス
  • ・ 該当年の購読料について、25%ディスカウント
  • ・ 追加費用は無し(たとえばtake-over journals)
  • ・ OAへのコミットメントは中程度(medium)。
    APC見積数(APC numbers in quotation)に対する事前支払いが求められる。
  • ・ APCの20%ディスカウント
  • ・ 当年に〔APC見積数を超える〕APCは全て20%ディスカウント

オプション4:OA Heavy

  • ・ CUP学術雑誌コレクションへのフルアクセス
  • ・ 該当年の購読料について、35%ディスカウント
  • ・ 追加費用は無し(たとえばtake-over journals)
  • ・ OAへのコミットメントは重度(heavy)。
    APC見積数(APC numbers in quotation)に対する事前支払いが求められる。
  • ・ APCの25%ディスカウント
  • ・ 当年に〔APC見積数を超える〕APCは全て25%ディスカウント

どのオプションにも毎年変更できるように、契約には柔軟性が持たせられています。たとえば、一年目にLight OA契約で、二年目にMedium OAになったり、逆に一年目にHeavy OAで、二年目にLight OAに移行することができます。

APCは3年契約のなかで繰り越すこともできます。つまり、ある年に見積もられたAPC数を使い切らなかった場合、その使い残りのAPCは翌年に繰り越し、かつ機関はその際に、OA MediumからOA Lightへなど、OAが軽めのオプションに移行することができます。

この契約は、2018年11月にCUPがスウェーデン高等教育のBibsamコンソーシアム締結したRead and Publish契約や、オランダの大学図書館UKBコンソーシアムと2017年に締結した契約に準じるものです。OA出版の実際がどうであるかについては、Step by Step Guideをご覧ください。

[Cambridge Core blog] (2019.2.12)
Cambridge University Press Signs major UK Open Access deal

[Cambridge University Press]
Step-by-step guide for authors publishing Open Access in Cambridge Journals

世界の学術機関の学術雑誌契約は、これまでのような学術雑誌の購読(Read)分だけでなく、論文の出版(Publish)分を含む方向に、移行しつつあります。
近年、論文が採択と同時にオープンアクセス(OA)で出版される「OA雑誌」が拡大しつつありますが、(OA雑誌においては購読料収入が得られず、出版コストの回収ができないため)、論文掲載料(APC)を論文著者から徴収することが一般的です。これまでは研究者一人一人からAPCを徴収していましたが、今回、ケンブリッジ大学出版が英国の大学に対して提示したのは、大学が機関として、購読料だけでなくAPCも負担するという契約モデルです。

このように、大学組織がAPCも負担するメリットは、いくつかあります。

  1. 大学組織は、OA雑誌への転換により浮いた購読料を、APCに回すことができる。研究者は、自身の研究費からAPCを負担する必要がなくなる。
  2. 年間の論文生産数が高い大学は、APCについてボリュームディスカウントを交渉できる。
  3. これまで、年間どの程度のAPCが負担されていたのかが大学において把握できなかったのが、把握可能となる(つまり、出版社との契約において、客観的数値(購読雑誌数、出版論文数)のもとでの交渉が可能となる)。
  4. 出版社としては、欧州十数の研究助成機関が要求する「プランS」の基準に準拠できる。結果として、学術雑誌へのOAへの移行が促進される。

この「Publish and Read契約」あるいは「Read and Publish契約」については、随所でその言葉だけが登場していたのですが、具体的な契約条件がこれまで見えていませんでした。その意味で、このケンブリッジ大学出版会が明示した4段階の「Read and Publish契約」は、①購読料に対する考え方(値上げ率、ディスカウント率、アクセスの範囲)と、②APC費用負担の考え方(見積もりAPC、ディスカウント率)、③費用負担のタイミングを明瞭に示しており、大変参考になります。
APCの事前支払いを求めるというのは、興味深いです。これまでAPCは論文の採択が確定したタイミングで支払われていましたが、そのようにすると、出版社としても大学としても、年間の収入/支出予測がたたず、運営しにくいという点を解消するための策と思われます。

ここで明示された契約条件について、難を言うのであれば、

  1. 「APC見積数(APC numbers in quotation)」というのが、(前年度に出版された論文数とは推測しますが)、どのように算出されるのかが示されていない。
  2. 一大学から出版される論文数がどの程度だと、Light / Medium / Heavy OAに該当するかの基準が示されていない。
  3. 4段階それぞれのお値段がそれぞれおいくらなのかが不明である。

などが挙げられます。

2. の基準が示されていないということは、この契約の4段階はおそらくAPC数に依るのではなく、大学がどの程度OA出版であることを重視し、学術出版市場全体がOAとなることにどれだけ寄与したいと思うかに依るのかと思いますが、これはあくまでも憶測です。
3. の予算額は正直よく分かりません。同じ雑誌数を購読していても、学術雑誌の購読料が大学によって異なるという歴史的背景もあることから、このようになっているのでしょう。この4段階をみると、OA重視度が高まるほど、購読料のディスカウント率も、APCのディスカウント率も高くなる設定となっているので、論文生産数の多い少ないに依らず、いずれの機関もHeavy OAの方がお得に見えます。しかしおそらく、そうは問屋が卸さないので、何かしら考え方のカラクリがあるのでしょう。また、それが大学が毎年この4段階で行き来して良いということの意味なのでしょう。

なお「Publish and Read契約」と「Read and Publish契約」ですが、この記事には説明がないのですが、ドイツ大学とワイリー社との間の「Publish and Read契約」締結(2019年1月)の記事には、「Publish and Read契約」は論文出版数をベースに契約額が算出されるのに対して、「Read and Publish契約」は、購読料をベースに契約額が算出されるとありました。
このケンブリッジ大学出版会の契約方式の記事には「Read and Publish契約」とあるので、購読料をベースとした契約形態で、「Publish and Read契約」ほどには前に進んでいないのかもしれません。

[Lepublikateur] (2019.1.16)
Pay to Publish Open Access: On the DEAL-Wiley Agreement

記事に言及のある、OA出版の実際に関するStep by Step Guideですが、以下のような手順が示されています。

  • 1.論文作成
  • 2.論文投稿
  • 3.論文査読
  • 4.論文採択の確定
    • ・ 論文出版のためのOAライセンスに記入のこと。これにより、OA出版の意向を示す。
  • 5a.支払いプロセス
    • ・ APC支払いに関するRightslinkからのメールを受信
    • ・ Rightslinkにログインもしくはアカウント作成
    • ・ 該当する場合、「機関ディスカウント」欄に機関名を入力
    • ・ 支払いを確定
  • 5b.論文編集プロセス
    (校閲、著者確認、組み版、最終印刷版確定)
  • 6.論文のOA出版

つまり、これまでは研究者が自身のクレジットカード番号を入れて立替払をしていた5a.の支払いプロセスにおいて、「機関ディスカウント」欄に機関名を入力すると、機関が負担することになり、研究者は費用負担を免除されるということになります。OA出版は数十万円するAPC負担を研究者(もしくは機関)に強いるため、OAへの移行が進むと開発途上国からの論文投稿が困難となります。これに配慮して、開発途上国向けのAPCディスカウントやAPC免除も想定されており、この「機関ディスカウント」欄などにそうした条件を入力していくことになるのでしょう。
まるでe-ショッピングのときの、「クーポン」やプレミアム会員特典みたいですね。研究者あるいは機関によって、同じ論文出版でもお値段が変わることになります。

[Cambridge University Press]
Step-by-step guide for authors publishing Open Access in Cambridge Journals

なおドイツが三大大手出版社の一つであるワイリー社とPublish and Read(PAR)契約を締結したというニュースは、本年1月に駆け巡りました。この詳細の契約条件はまだ公開されていないのですが、プレスリリースに基づく情報を分析した記事では、以下のように説明しています。

【ドイツとワイリー社間のPublish and Read契約(2019.1)】

  • ・ 3カ年契約
  • ・ PAR価格は一論文あたり2750ユーロ。
  • ・ ドイツ学術機関の支払い窓口:MPDL Services GmbH
    (マックスプランク研究所のMax Planck Digital Library (MPDL))
  • ・ 各学術機関の負担額は、これまでのライセンス費用と当該機関の論文生産数に応じる
  • ・Publish部分
    • - ドイツの学術機関がワイリー社の雑誌から出版する論文数は年間約1万点。
    • - 多くがCC-BYライセンスで出版されることとなる。
      (一部の雑誌はCC-BY-NCやCC-BY-NC-NDのみを提供)
    • - ゴールドOA雑誌(約110雑誌)にはAPCを支払う。
      参画機関の研究者は20%のディスカウントを得る。
    • - OAで出版することは特に強制はされない。
  • ・Read部分
    • - ワイリー社の出版する全雑誌へのアクセスを得る。
    • - 1997年まで遡り、過去の論文への恒久的アクセスを得る。

この契約の合意がなされたとき、三大大手出版社の一つである出版社との初めてのPAR契約であったため、反響が大きく、プランSに準拠する初の大規模な契約であると話題となりました。三大大手学術出版社との交渉を率いるProjekt-DEAL(ドイツ学長協会)もこの契約に大変満足していると聞いています。一方、この記事はこの条件を冷静に分析し、本当に学術機関側の勝利なのかと疑問を投げかけています。

一つには、一論文あたりのPAR契約価格が2750ユーロで高めに設定されていることです。ケンブリッジ大学出版のはRead and Publish契約なので購読料をベースにしていますが、ワイリー社のはPublish and Read契約なので、出版論文数ベースで契約額が決まってきます。2750ユーロで約1万件の論文生産数となると、2750万ユーロとなります。これは結構な額なのでは?とこの記事では評しています。
しかも、この契約は子細に吟味すると、ゴールドOA雑誌(完全OA雑誌)から出版される論文は別途APCを支払う条件となっています。ワイリー社の完全OA雑誌は約110あり、そのAPC平均は1882ユーロです。ワイリー社から出版される1万件の論文のうち2.5%が完全OA雑誌から出版されているとすると、1882×250点×0.8(20%ディスカウント)=37.64万ユーロが更にかかることとなります。
ちなみにドイツとエルゼビア社のPAR契約交渉は決裂したわけですが、ここで交渉されていたのはPAR契約価格2000ユーロで、エルゼビア社としては到底飲めなかった価格であったとされます。またそれに対して2750ユーロのワイリー社は、交渉をうまく進めたのでは?と評価されています。

さらに、このようにPAR契約価格と完全OA雑誌へのAPCが別立てとなっているということは、ワイリー社が両者のなかで多様なバランスをとることを可能とします。
つまり、現状では完全OA雑誌のAPC(平均1882ユーロ)の方がPAR契約価格(2700ユーロ)より大幅に低いため、ワイリー社の企業戦略としては、PAR契約価格が対象とするハイブリッド雑誌を完全OA雑誌に転換するよりも、権威ある雑誌をハイブリッド雑誌として引き留め、こちらへの論文投稿を維持・拡大した方が収益を上げられます。PAR契約においても、ドイツだけでなく他の諸国・機関もPAR契約を締結するようになれば、ハイブリッド雑誌内でOAで出版される論文の割合が拡大するので、OAが達成されるとされていますが、一方でPAR契約を締結しない(できない?)機関の研究者は、PAR契約額もAPCディスカウントもないので、OAで出版することはなく、APCは無償だけどクローズドな雑誌に投稿することとなります。

[Lepublikateur] (2019.1.16)
Pay to Publish Open Access: On the DEAL-Wiley Agreement

学術雑誌のOA化(と購読料対策)を求めて現在、欧州十数研究助成機関による「プランS」や、ドイツ学長協会が主導する三大大手出版社との契約交渉「Projekt DEAL」がが、OA時代の新しい学術雑誌の契約方式として、「Publish and Read契約」や「Read and Publish契約」を追求している訳ですが、その具体が見えてくるなか、その新しいOA出版契約モデルにおいても一長一短が確認されるようになっているようです。

船守美穂