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European funders mandating immediate OA after 2020 ― Are prestigeous journals going to be eliminated?!
英、仏、オランダを含む11の欧州の研究助成機関は9月4日、研究助成をした研究成果について、論文発表直後からのオープンアクセス(OA)を実現する、イニシアティブ「cOAlition S」を宣言しました。
cOAlition Sは、以下に示す「プランSの10原則」を推進することを通じて、「2020年1月以降、研究助成を得た研究成果論文は全て、OA雑誌または、基準に適合したOAプラットフォームにて、発表されなければいけない」という目標を推進します。
11の助成機関は、欧州研究会議(ERC)を含む欧州委員会(EC)とともに、お互いの施策を調和させながら、プランSに取り組みます。残り18の欧州の助成機関にも、賛同を呼びかけます。
このイニシアティブは、各助成機関の長および、Science EuropeのMarc Schlitz理事長と、欧州委員会OA担当であるRobert-Jan Smits、またERCの科学カウンシルからの協力も得て、実現しました。Science Europeは、2011年にブリュッセルに設立された、欧州の研究助成機関および研究実施機関による協会です。
【プランSの10原則】(簡訳)
- ・ 論文著者は、無制限の著作権を留保する。全ての出版物はcc-byなどのオープンライセンスで出版されなければならない。
- ・ 助成機関は、OA雑誌およびOAプラットフォームの満たすべき条件を確立する。
- ・ 適切なOA雑誌やプラットフォームが存在しない場合、助成機関はその構築に向けて支援をする。
- ・ 論文のOA出版のための費用は、研究者個人ではなく、助成機関もしくは学術機関が負担する。
- ・ OA出版費用に関する助成額は標準化され、上限が設けられる。
- ・ 透明性を確保するため、助成機関は大学、研究機関、図書館に対して、そのポリシーと戦略をこの原則に合わせることを要求する。
- ・ この原則は、全ての学術出版に適用されるが、モノグラフや著書については、履行開始が2020年1月1日に間に合わない可能性があることは理解されている。
- ・ 長期保存およびエディトリアルの革新可能性から、オープンアーカイブやリポジトリにおける研究成果の登録は認められる。
- ・ ハイブリッドモデルの学術雑誌は、本原則に適合しない。
- ・ 研究助成機関はこの原則の履行状況をモニターし、違反していた場合は、制裁措置を取る。
【署名した研究助成機関】
- ・ オーストリア(Austrian Science Fund, FWF)
- ・ フランス(French National Research Agency, ANR)
- ・ アイルランド(Science Foundation Ireland, SFI)
- ・ イタリア(National Institute for Nuclear Physics, INFN)
- ・ ルクセンブルグ(National Research Fund, FNR)
- ・ オランダ(Netherlands Organisation for Scientific Research, NWO)
- ・ ノルウェー(Research Council of Norway, RCN)
- ・ ポーランド(National Science Centre Poland, NCN)
- ・ スロベニア(Slovenian Research Agency, ARRS)
- ・ スウェーデン(Swedish Research Council for Environment, Agricultural Sciences and Spatial Planning, FORMAS)
- ・ イギリス(UK Research and Innovation, UKRI)
[Science Europe] (2018.9.4)
cOAlition S
なかなか強行ですね。Science誌は「欧州の研究助成機関、購読料を必要とする雑誌への論文出版を禁じる」、Nature誌は「過激なOA計画により、学術雑誌の購読料消滅する可能性」などという見出しで、このニュースを報じています。
学術雑誌には、①購読料を支払わないとアクセスを得られない、従来からある、「購読誌(subscription journal)」、②論文が採択となり出版された直後から、オンラインでオープンにアクセス可能となる「OA雑誌」、そしてその中間に、③購読誌ではあるが、著者がOA掲載料を支払うとOAとしてくれる「ハイブリッド雑誌」、それから④購読誌ではあるが、一定のエンバーゴ期間(6~12ヶ月)を経てOAとしてくれる、「遅延型OA雑誌(delayed journal)」があります。
この計画は、論文発表直後からのOAを要求、かつ、ハイブリッド雑誌への論文掲載は認めないと明記しているので、上記カテゴリーの②における出版しか認めないということになります(その他機関リポジトリ等のOAプラットホームへの掲載は認めています)。英国大学協会(Universities UK)の調べによると、2016年において学術雑誌の内訳は、①購読誌(37.7%)、②OA雑誌(15.2%)、③ハイブリッド雑誌(45%)、④遅延型OA雑誌(2.2%)ですから、この計画は、世界にある学術雑誌のうち15.2%しか認めないということとなります(Nature記事に、この内訳の棒グラフがあります)。というより、この計画により、②以外の雑誌を、②のOA雑誌に強制的に移行させ、購読料を世の中から消滅させることが期待されています。
世界では、高い購読料によりアカデミアですらも学術雑誌へのアクセスを阻まれることが多くなっていることから、学術論文のOA運動が2000年前後から起き、(論文コピーを機関リポジトリ等に置くことによるOA化(グリーンOA)のほかに)、学術論文が出版されると同時にOAとなるOA雑誌(②)が生み出されました(ゴールドOA)。こうしたOA雑誌は、購読料収入は得られないため、著者から得る論文出版料(APC, Article Processing Charge)により、諸々の雑誌出版経費を賄います。APCは一論文当たり数十万円するので、欧米では助成機関もしくは大学等機関が負担する仕組みができています。
しかしこのような施策を講じても、研究者は伝統的に権威ある雑誌(①)への論文掲載を欲し、かつ、こうした伝統ある購読誌も、APCを支払えば当該論文をOAにするというオプション(③)や、一定のエンバーゴ期間後のOA(④)を提供するようになったので、尚更、研究者の論文投稿をOA雑誌(②)に仕向けることが難しくなっていました。
また、助成機関は本来OA雑誌(②)への投稿を促進しようとしてAPC負担を開始したわけですが、実態としては、ハイブリッド雑誌(③)において論文をOAとするにばかり、助成機関の支援するAPCが利用されてしまっていたという事実が発覚しました。ハイブリッド雑誌は、一方では大学から購読料を聴取し、もう一方では著者からAPCを徴収するという、所謂二重取り(double dipping)をしている、(財務的観点から見た場合の)最もたちの悪い学術雑誌です。学術論文をOAとすることはできるかもしれませんが、当初の、学術雑誌の高い購読料対策として始まったOA運動と真逆の効果を発揮します。
学術論文のOA化がなかなか進展しないこと、ハイブリッド雑誌にばかり経費が流れていることへの苛立ちから、今回のような強行な宣言が助成機関からなされました。
この発表に対する反応は、立場により様々です。OA推進の立場からは、歓声が上がっています。OA2020を推進するマックスプランク・ディジタルライブラリーのRalf Schimmerは、「この計画により、出版社に対して(OA雑誌への転換に向けての)圧力をかけることができる。また、(学術出版の)エコシステムが転換可能であるという意識を、研究者に持たせることができる」としています。ハーバード大学図書館のPeter Suberは、この計画を「ご立派」と評しています。これまで、助成した研究成果の即座OAを要求できていたのはゲイツ財団のみであり、他の助成機関はOAを推奨しつつも、そこまでは強く出られなかったからです。
一方、伝統的な出版社はこの計画に対して批判的です。「この計画は、学術出版システムを壊滅させる」とシュプリンガー・ネイチャー社は述べています。また、「研究およびそのコミュニケーションはグローバルに行われるため、一部の助成機関でルールを作るより、グローバルな調整をしながら進めるべき」としています。Science誌の出版社であるAAASは、「このような計画の実施は、質の高い査読・出版・伝承の仕組みを崩壊させ、研究者にとって不利益。かつ学問の自由を侵すものである」「Scienceファミリーの雑誌群の運営維持も、サステイナブルではなくなる」としています。業界最大手のエルゼビア社は、コメントを差し控え、「国際学術出版協会(国際STM協会)から注意喚起があった。研究者はどこの雑誌に論文投稿するかの自由を有するべきである」としています。他方、本計画をリードするScience EuropeのSchlitzは、「これは学問の自由を侵していない」とした上で、「助成機関は、助成したお金がどのように利用されるかに、注文が付けて良いはずである」と付け加えています。
助成機関の足並みも、完全に揃っているわけではありません。欧州委員会はこの計画策定に協力しながらも、この計画に名前を連ねていません。これから欧州理事会等と調整し、賛同できるようにしたいとしています。英・ウェルカムトラスト財団は、この計画を支援するとしながらも、新しいOAポリシーを策定中の模様です。OAを強力に推進するスイス、スウェーデン、ドイツも、この計画に名を連ねていません。スウェーデンは、この計画の精神に賛同しつつも、2020年までというタイムラインが性急すぎると感じています。これから対応を検討していくそうです。ドイツの助成機関(DFG)は、OAを「推奨(request)」しつつも「義務化」はしていないため、この計画に署名しなかったとしています。また、全研究者がOA雑誌に投稿することを強制した場合、学術出版のコストが上昇することを危惧しています。
計画に賛同した英国の助成機関(UKRI)は、「総OA出版に実際にいくらかかるかは、出版業界の反応に依るため、現状では計算することができない」「これは、原則に関する宣言であり、出版モデルに関する宣言ではない」としています。オランダの助成機関(NWO)は、「これはオープンサイエンスに向けて大きな移行の一部であり、我々が科学および研究者の質をどのように計測するかの再評価である」としています。
この計画では、著者が論文への著作権を留保します。また論文出版料には上限が設けられます。ハイブリッド雑誌は認められません。更に、違反した研究者に対して助成を取りやめるといった、制裁措置も視野に入っています。
シュプリンガーネイチャーは1700誌、エルゼビアは1850誌のハイブリッド雑誌を出版しています。これらが全て否定されます。こうしたハイブリッド雑誌は、OAへの移行の過程で必要と思われたが、結局その用はなさず、さらに二重取りの種をまいたと、本計画をリードするScience EuropeのSchlitzは述べています。
一方、この計画は、所謂「グリーンOA」に対してアンビバレントな態度を取っています。グリーンOAでは、研究者はいずこかの雑誌に投稿した論文の「コピー」もしくは「著者最終稿」を、機関リポジトリや分野別リポジトリにて公開します。この計画では、「リポジトリにおける研究成果の登録は認められる」という表現をしています。グリーンOAは、安価かつ大規模展開が容易で、若い研究者に伝統ある雑誌における業績の形成をしつつOA出版の道を提供する優良な手段であると、ハーバード大学図書館のSuberは述べています。
欧州では、Read and Publishモデルという、「自国もしくは自機関の研究者が出版する全ての論文を即座にOAで出版し、かつ、契約相手の出版社から出版される全ての論文へのOA権を得ることについて、購読料と論文出版料を組み合わせた契約形態」を、完全OAへの段階的移行措置として、近年追求していましたが、今回の計画は、これに痺れを切らし、購読料を一切支払わない方向に舵取りをしたこととなります。
本年7月、ドイツおよびスウェーデンにおいてはエルゼビア社との契約交渉が決裂し、両国ともエルゼビア社の学術雑誌へのアクセスを失いましたが、この計画により、出版社に対してより強い圧力がかると、本計画をリードするScience EuropeのSchlitzは述べています。
[Science] (2018.9.4)
European science funders ban grantees from publishing in paywalled journals
[Nature] (2018.9.4)
Radical open-access plan could spell end to journal subscriptions
ドイツのエルゼビア社との交渉もそうですが、とにかく欧州の姿勢は強いですよね・・・。ここまでくると、単に学術雑誌の購読料が高いということに対する対抗策ではなく、「学術はオープンであってしかるべきである」という強い信念と、その実現に向けた執念がないと、できないように思います。
助成機関が、研究成果が出版される学術雑誌をOA雑誌に限定するという施策を初めにしたのはゲイツ財団です。「2017年1月以降、ゲイツ財団から助成を得て生み出された研究成果は、発表と同時にOAとならなければいけない」という規則が、導入されています。趣旨としては、せっかく助成して得られた成果が速やかにOAとなることにより、更に多くの人々の役に立ち、裨益効果が最大化される、というものです。ゲイツ財団は、グローバル・ヘルスについて世界で最も影響力のある財団で、科学技術の進展により途上国における命を救うことを、強く求めています。
ゲイツ財団からのこのOAポリシーによりNature、Science、the New England Journal of Medicine (NEJM) 、the Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)などの有力購読誌への出版は出来ないこととなりました。しかしその後、NEJMおよびPNASはOA雑誌へと転換しました。またScience誌については、ゲイツ財団と18ヶ月間のOAトライアル期間を設け、OA出版を試みました(ゲイツ財団はこのトライアルの初めの一年に対して10万ドル、その後も一定額を拠出しました。なおこのトライアルは先月静かに終わりました)。Nature誌については特別の取り決めはなされなかったものの、ゲイツ財団からの助成を得た論文についてはOAで出版されたそうです。
今回の欧州の11の助成機関も同様に、従来からの購読誌やハイブリッド雑誌が、OA雑誌に移行することを意図しています。ゲイツ財団は大きいと言っても、民間の財団で限定的でしたが、今回は公的な研究助成であり、賛同した11の助成機関を合わせると76億ユーロ(1兆円弱)の助成規模です。また欧州の他の助成機関も合流すると思われるので、影響力があります。ちなみに欧州委員会は今回の計画に署名はまだしていませんが、その科学技術イノベーション促進枠組みである、Horizon2020の後継の、Horizon Europe(2021-27)については、ハイブリッド雑誌に対するAPC補助は認めず、OA雑誌に限定するというニュースが流れているので、ある意味、同じ方向性を持っています。
[Nature] (2017.1.13)
Gates Foundation research can't be published in top journals
[Nature] (2018.7.13)
Science journals end open-access trial with Gates Foundation
[OpenAIRE Blog] (2018.6.26)
The worst of both worlds: Hybrid Open Access
なお、ここで追求されているのは所謂「ゴールドOA」と呼ばれる、OA雑誌を通してのOAの実現ですが、それには論文著者が論文投稿のたびに数十万円の論文投稿料(APC)を負担しなくてはいけません。一方記事にも言及がありますが、こうした場合、開発途上国など、APCを負担できない研究者からの論文投稿が阻まれます。
日本においても、個人研究費が50万円以下の研究者が6割を占めるという調査結果があるぐらいですから、しかも欧米のように、(個人研究費以外の財源から)研究助成機関や大学等学術機関がAPCを負担してくれるという仕組みがあるわけではないのですから、この流れが主流となった場合、日本からの論文投稿も打撃を受ける可能性があります(近年の日本からの論文生産量の伸び悩みをみると、すでに打撃を受けている可能性もあります)。そのようになる前に、日本においても、助成機関等がシステマチックにAPCを支援する仕組みの検討が必要です。
他方、もともとグリーンOA路線のアメリカの動きが見えないのも、気になるところです。
「個人研究費等の実態に関するアンケート」について(調査結果の概要)」
第8期研究費部会(第8回)資料3-1(2016.8.1)
ハーバード大学図書館のPeter Suberも記事中に述べていますが、機関リポジトリ等を利用した「グリーンOA」が、もう少し追求されていいように感じます。日本は特に、機関リポジトリ保有数からしたら世界No1の「グリーンOA大国」なのですから、これをもっと活用してしかるべきです。また論文出版料が国として、システマチックに補填されるという予算枠組みができないのであれば特に、ゴールドOAではなく、グリーンOAを頑張るべきです。
他方、これまで機関リポジトリは大展開しつつも、論文のコピーを搭載するという部分が伸び悩んでいるという事実があり、ここはどうにかシステマチックに登録されるという仕組みを整備する必要があります。個々の研究者に対して、学術雑誌の高い購読料への対応策であることに理解を求めつつ、一方で組織的には出版社から学術論文を公開できるまでのエンバーゴ期間の短縮を求めるといったことをした方が良いように思いました。
なお機関リポジトリは現在国際的に、Next Generation Repositories(NGR)という、新しいコンセプトに向かっています。ここでは機関リポジトリのコンテンツ公開機能の上に、論文の長期保存、査読プロセス、出版機能、評価機能などが組み込まれています。機関リポジトリの上で、論文投稿や査読、論文出版までなされるようになると、研究者から発表した論文一つ一つに対してコピーをもらって、リポジトリに登録していくという作業が不要になり、機関リポジトリの活用が進みそうです。
船守美穂
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