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University of California to change journal negotiations

10の分校にまたがるカリフォルニア大学システム(UCシステム)は、2018年6月、学術雑誌の価格交渉方針に関する行動計画(Call for Action)を発表しました。ゴールを一言で表現すると、学術情報流通のコスト負担を、学術雑誌の購読料ではなく、オープンな学術の発信(open dissemination)を負担する方向に向けて、転換を図るというものです。

学術情報流通については、学術雑誌の価格高騰問題と、真にオープンな学術コミュニケーションの仕組みの達成という、2つの課題を同時に解決する必要がありました。

  • ○ 大学が維持可能なレベルにまでコストを削減するという、緊急的なニーズ
  • ○ 研究の輩出と発信を、可能なかぎりOAに転換したいという要求(デジタルネットワークの力を梃子にしながら、研究成果のベネフィットを加速し、学術研究の成果をより信頼可能とし、よりよい社会の実現のために研究成果をより広く共有する)

この2つの課題を解決するためには、購読料に基づいたシステムを直接ターゲットしていくしかないという認識から、以下の戦略的行動計画をまとめ、2019年の価格交渉に向けての指針をしていきます。世界ではOA2020に向けて35カ国100署名があつまり、ドイツのProjekt DEALや、フィンランドの"No Deal No Review"などの運動が起こっており、この不可逆な転換に向けてまさに、機が熟してきているといえます。

文書は、UCシステムの「システム横断的図書館および学術情報アドバイザリー委員会(SLASIAC)」が、「大学図書館のためのUCカウンシル(CoUL)」および「UC学術評議会図書館と学術コミュニケーション大学委員会 (UCOLASC)」の協力のもとに作成したもので、これからUCのコミュニティと、あらゆる学術コミュニケーションのステークホルダーに対して、この変革に向けての道を呼びかけていく予定です。

  • - Systemwide Library and Scholarly Information Advisory Committee (SLASIAC)
  • - UC Council of University Librarians (CoUL)
  • - UC Academic Senate University Committee On Library And Scholarly Communication (UCOLASC)

この行動計画をもとにUCの教員、学生、研究者と議論を積み重ねつつ、価値ある学術情報が世界でより良いインパクトをもたらすように、よりサステイナブルでインクルーシブな、オープンな学術コミュニケーションシステムを、世界の学術機関や学術情報流通関連機関と模索していきます。

【学術雑誌交渉における戦略的優先項目】

  1. 交渉において、UC著者による即時のOA出版を優先事項とします。
  2. OA出版に向けた持続可能なコスト負担を念頭に、研究へのアクセスと発信におい て、コストが削減されることを優先事項とします。OA出版に対するコスト負担は、UCやその他における購読料のコスト負担より縮小する必要があります。
  3. 交渉にあたっては、自社から出版される論文に関わるAPC額とコンテンツに関する情報を、顧客だけでなく一般に対しても、透明性をもって提示する出版社との契約を優先します。
  4. 財務的ペナルティーなしで、ライセンス契約における支出を削減できる契約を優先します。
  5. (OA出版から漏れる)残りの購読コンテンツについては、可能な限り広い利用の権利を含む、アカデミアの価値と規範に沿った契約を優先します。
  6. 関心あるステークホルダーとOAの提供状況を情報共有できる契約を優先し、UCのライセンスにおいて、非開示要求(non-disclosure requirement)は認めません。
  7. UCの教員および図書館が策定した基本方針に基づき、OAへの完全移行に向けて支援してくれる出版社と積極的に協働することを優先します。

【直近の行動に関する戦略的指針】

  • ○ 契約のキャンセルおよび維持の判断において、全ての出版社を、コストおよび価値の双方の観点から評価します。その際、UCOLASCの「学術コミュニケーション転換のための権利と基本理念宣言」(下記参照)を含む、維持可能と透明性ある、コストベースのOA費用を念頭におきます。
  • ○ 論文著者、エディトリアルボード、学会が、FAIRなOAプリンシプルの理念に基づいた学術雑誌を創設しようとする際、財政支援を行い、OAへの転換を促進します。伝統的学術雑誌の転換も、必要に応じて、支援します。
  • ○ 研究成果をOAへ転換する、他の米国内および世界の研究機関と、積極的にパートナーとなります。

【ステークホルダーとパートナー】

  • 大学図書館のUCカウンシル(CoUL):この学術出版モデルの転換において、リーダーシップと調整を行う。
  • UC教員:UCの研究事業体における中心的なステークホルダーであり、学術コミュニケーションのエコシステムにおいて主要な貢献者であるため、学術出版モデルの転換は教員の基本的な関心に沿う必要があり、また教員の支援なしでは転換は実現しない。教員は、学術コンテンツの著者・権威者・消費者として、学術出版の転換において随所で大きな力を及ぼすことができる。論文作成と出版時、エディトリアルや査読時など、教員は過去にもOAに向けて活動をしたことがあり、今回もそれが期待されている。
    また、UCOLASCの「学術コミュニケーション転換のための権利と基本理念宣言」(下記参照)は、UCの公的な使命を促進する上での一致団結を表明する明白なアクションであり、OAを通してUCの研究を可能な限りフリーかつ広く共有していこうという意志の現れであり、UCが出版社との契約において、税金を最も倫理的で、社会的責任をもって支出するための教員の支援を意味している。大学図書館は、UCOLASCやその他の学術評議会委員会と積極的に連携しながら、出版社との契約や合意内容において、これらの教員の意図が満たされるようにする。
  • 大学部課長:学術出版の転換の持続性と方向性において、主要なステークホルダーであり、学術出版の価格交渉において、プロボストのSLASIACに逐次報告し助言を求める。
  • UC学術コミュニケーション室(OSC):上記ステークホルダーをSLASIACのもとにまとめ、転換を図る主要パートナーで、戦略推進とともに、内容を吟味し、発信する主体となる。
  • その他の図書館、研究機関、コンソーシアム:世界のピア機関とともに、OA2020やその他の方法を通じて、積極的に協力する。
  • 研究助成機関:研究助成機関は、OAポリシーの義務化やインフラ提供、OA出版助成などを通じて、徐々に大きな役割を果たしつつある。我々の分析によると、UCのような研究中心大学においては、助成機関による出版助成がOAの持続性のために必要となる。研究助成機関とは、機会あるときに連携していきたい。
  • 学術出版社と学会:OA出版への添加において、クリティカルなプレヤーであり、敵対するのではなく、必要不可欠のパートナーとして、協力していく。

[Office of Scholarly Communication, University of California] (2018.6)
Negotiating Journal Agreements at UC: A Call to Action

[SPARC] Big Deal Cancellation Tracking

米国の大学が学術雑誌の購読料削減とOAへの移行に向けて、動き出しました。米国の大学は、州および機関ごとの独立性が高く、欧州やその他の国のようにナショナルレベルでは動かず、また今回もナショナルレベルではないのですが、このプレスリリースにあるように、米国の研究成果の8%を輩出するカリフォルニア大学がこのような明確で強い意志で一歩を踏み出したのは、大きな前進です。共同歩調をとる大学も現れてくるでしょう。

学術雑誌の購読料をなくし、代わりにOA出版について費用を負担する方式に転換するというモデルは、これまでドイツの大学とエルゼビア社の交渉について報じてきたモデル、また世界的に進められているOA2020というモデルと同一のものです。OAになったからといって、OA出版費用を出版社につり上げられたら、結局元の木阿弥ではないか?という声も米国にはあったと聞いていますが、とりあえずこの文書では、UCは納税者に支えられた州立大学として、公的資金で得られた研究成果を社会と共有する使命があると説明しています。

なお今回のSLASIACの行動計画は、その前にCoULとUCOLASCが発信した以下2つの宣言にも沿ったものとなっています。UCOLASCの宣言は「18のNO!」からなっており、歯切れがいいので、以下に簡訳しました。よろしければご参照ください。


UC学術評議会図書館と学術コミュニケーション大学委員会 (UCOLASC):
○ 学術コミュニケーション転換のための権利と基本理念宣言 (2018.4.13)



購読契約ベースの出版からOA出版への転換というゴールに向けて機関のポリシーと実際を一致させるため、UCOLASCは、カリフォルニア大学が出版社との学術雑誌のライセンス更新交渉において、以下の権利とい基本原則を強く主張することを提言する。

  1. 著作権譲渡をしない。
  2. プレプリントの制限を許さない。
  3. OAポリシーの権利放棄をしない。
  4. 共有の遅延(エンバーゴ)を認めない。
  5. 著者による再利用の制限を認めない。
  6. (以前出版された論文に関するOAの)権利回復に関する妨害を認めない。
  7. 著作権の例外規定の縮小を認めない。
  8. データ共有における妨害を認めない。
  9. コンテンツ・マイニングにおける制限を認めない。
  10. クローズドなメタデータを認めない。
  11. (査読とエディトリアルにおける)無償労働を認めない。
  12. 長期購読契約を認めない。
  13. 永久的な有料の壁(paywall)を認めない
  14. 重複支払いを認めない。
  15. 隠された利益を認めない。
  16. OAオフセットなしの契約を認めない。
  17. 我々の成果に対する新たな有料の壁(paywall)を認めない。
  18. 守秘義務契約を認めない。

[University Committee on Library and Scholarly Communication (UCOLASC)] (2018.4.13)
Declaration of Rights and Principles to Transform Scholarly Communication



船守美穂