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More and more German universities to announce cancellation of Elsevier contract

「エルゼビア社との学術雑誌購読に関わる2018年の契約を更新しない」とドイツの52の学術機関(21大学、19高等教育機関、12研究所)が追加的に宣言しました。

2017年から契約が切れている75機関(30大学、16高等教育機関、26研究所、3州立図書館)と合わせると、計127機関(51大学、35高等教育機関、38研究所、3州立図書館)が2018年以降、Projekt-DEALが交渉を進めるエルゼビア社とのナショナルライセンスへの合意がなかった場合、エルゼビア社の出版する学術雑誌へのアクセスがなくなることとなります。

Projekt-DEAL率いるドイツの学術機関は、これによりエルゼビア社への圧力を高めたと考えています。

[Projekt-DEAL] (2017/8/29)
Vertragskündigungen Elsevier 2017 (契約打ち切りを宣言したドイツ学術機関のリスト)


このドイツ学術機関の動きは、メディアで大きな反響を呼びました。

Projekt-DEALが要求しているのは、学術情報流通の価格負担のモデルを変え、学術情報流通に関わる総コストを下げることです。
これまで学術機関は、学術雑誌の購読料と、著者が論文を出版するときの論文出版料(APC)の二種類の費用を負担していましたが、Projekt-DEALでは、ドイツの研究者が論文を出版する際のAPCのみで費用負担を行い、それと同時に、ドイツの研究者による論文のOAと、全世界の論文へのOAを手に入れようとしています。

この新しい費用負担モデルとなった場合、一論文あたりのAPCをいくらに設定するかが争点となります。
マックスプランク協会のある試算によると、現在世界の学術機関は、一論文を購読するために平均3800-5000ユーロ負担しています(年間150-200万の論文が出版され、これに約76億ユーロが世界の学術機関により購読料として負担されています)。
Projekt-DEALはこれを、一論文1300-2000ユーロの論文出版料APCで負担したいと交渉しています。最下限の1300ユーロは、オランダにおけるシュプリンガー社のAPCの価格です。ちなみにワイリー社は1600ユーロ、エルゼビア社は4000ユーロです。
ドイツの最大の研究助成機関であるドイツ研究振興協会(DFG)は、APCとして2000ユーロまでは負担するとしており、交渉で譲ってもここまでが限度です。しかしエルゼビア社にとってはこれでも、現行価格からすると、安価すぎます。
しかしエルゼビア社の利益率が37%もあるいことを考えると、価格引き下げがなされるべきである、というのがドイツ学術機関の考え方です。

なおSpringerNature社とWiley社はこの新しい費用負担モデルに合意し、現在一論文あたりのAPCの額について価格交渉に応じています。しかしエルゼビア社は、この新費用負担モデルの考え方にすら合意していません。

Projekt-DEALでは更に、交渉成立後には契約内容が公開されることを要求していますが、これについてもエルゼビア社は拒否しています。
現行でエルゼビア社は、各大学との学術雑誌の購読に関わる契約の内容の「非公開」を契約書に盛り込んでいます。しかし学術機関側の交渉力を増すために、契約の透明性は高める必要があります。実際、オランダでは法的係争ののち契約が公開され、学術機関によって契約額に2-3倍の開きがあることが判明しました。

オランダ、フィンランド、オーストリア、イギリスの図書館および大学コンソーシアムは、ドイツと同様の内容の交渉をエルゼビア社と過去にしてきましたが、要求の全ては通すことができませんでした。たとえばオランダは、オランダの研究者の執筆した論文が全てOAとなることを要求していましたが、その3割しかOAとなりませんでした。
ドイツはこれら諸国より規模が大きいこともあり、交渉は難航すると思われる一方、120以上の機関が契約更新を見送るとなると、エルゼビア社への圧力も、他国以上に高いと予想されます。
なおスロバニア大学協会はすでに、2018年のWiley社とNatureSpringer社との交渉、2019年のエルゼビア社との交渉において、Projekt-DEALと同様のアプローチをとるとの決議をしています。

[Science] (2017/8/23)
A bold open-access push in Germany could change the future of academic publishing

このニュース、ネットで一週間ほど前に見かけたときは、ドイツ大学側の単なる強がりなのか、実際に交渉力を強めているのかの判断が付かなかったのですが、Projekt-DEAL事務局から、「これだけのドイツの学術機関が契約更新を見送ると表明したニュースに気づいているか?プレスにおける反響が相当あったぞ!」と連絡があり、どうやら本気で勝ちにいっているつもりであることが理解されました。

「勝つためには(エルゼビア社と)契約合意に至らないことも想定している」とProjekt-Deal事務局はScienceの記事に述べており、学術界側の受け入れられる水準になるまで交渉を粘ることが想定されています。

船守美穂