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Fair-sharing of academic papers

STM系の学術出版社が、STM出版社協会(Association of Scientific, Technical and Medical Publishers)の呼びかけで、電子ジャーナルの契約がなされていなければ本来読むことの出来ない、非オープンの論文について、著作権侵害とならずに共有できる、「フェア・シェアリング」の方法について議論の場を持ちました。

フェア・シェアリングでは、読むことはできるが、ダウンロードやコピー、印刷などは出来ない、論文へのリンクが提供され、著者はこのリンクを通じて、電子ジャーナルの契約をしていない研究者等とも自分の論文を共有できます。

この方法は、各国の助成機関が論文のオープンアクセスを求めるようになった2014年ごろからいくつかの出版社の試行されていましたが、近年、ResearchGateなどの普及により、研究者間の(違法であることの多い)論文共有が一般的となったことを受けて、学術出版業界として組織的な検討が開始されました。

ResearchGateやAcademia.edu等の学術系SNSにおいて、著作権侵害にあたる論文の共有がどの程度なされているのか、正確な数字は把握されていませんが、学術出版社からの委託で4月に5000名の研究者を対象に行われた調査によると、

  • ・ 研究者の57%が学術系SNSで自身の論文をアップロードした経験があり、
  • ・ そのうち79%が、論文の掲載雑誌の著作権ポリシーを確認したと言っており、
  • ・ しかし6割の研究者が、学術出版社のポリシーに関わらず、自分の論文はアップロードしても良いはずであると考えている。

との結果がでています。

学術出版最大手であるエルゼビア社は、たとえば2013年に、米国デジタルミレニアム著作権法に基づき学術系SNSサイトや研究者に対して、インターネット上で共有している論文を取り下げるよう、3000件の警告を送りつけるなど、法的手段に訴えています。また現在も、数百万件の学術論文を違法で掲載するSci-Hubと係争中です。一方、「こうした法的手段による、論文共有の取り締まりは限界があるため、これら学術系SNSサイトと話し合いを行い、長期的な解決を模索したい」とSTM出版社協会のスポークスパーソンは述べています。

学術出版社は、フェア・シェアリング専用の論文へのリンクを提供することにより、誰がどのような論文にアクセスしているかがトレースできるようになると述べています。

著作権侵害をせずとも論文を共有できるということは良いことですが、オープンアクセス推進論者からは、「誰がどのような論文にアクセスしているか」といった情報を学術出版社が占有することへの懸念から、こうした学術出版社の提供する方法ではなく、学術論文は完全にオープンアクセスとされるべきと主張されています。

[Nature] (2017.5.10)
Science publishers try new tack to combat unauthorized paper sharing

[Nature] (2014.12.2)
Nature promotes read-only sharing by subscribers

この学術出版社によるフェア・シェアリングの議論には、ネイチャー誌を出版するシュプリンガー・ネイチャーや、ケンブリッジ大学出版などの大手出版社も含まれており、制度化されれば、学術論文への(少なくとも閲覧可能という意味での)オープンアクセスは大きく前進することとなります。

一方で、オープンアクセス推進論者が主張するように、誰がどの論文にアクセスしているかという情報を学術出版社が手中に納めることにより、(インパクトファクターや引用数と同様)研究評価や研究者評価の方法と指標が、アカデミアではなく、学術出版社にコントロールされるのは避けたいですね。

しかしそうは言っても、現状でも、APCを支払って学術論文をオープンアクセスで出版した場合(gold OA)、誰がどの論文にアクセスしたかという情報はやはり学術出版社のところに入っている訳ですから、出版社に論文へのアクセス情報を把握されたくないということを論点としてしまうと、gold OAも否定しなくてはいけないような気がするのですが・・・。
しかしこの記事にはそこまでは指摘されていませんでした。

船守美穂