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Open-data contest of clinical trials controversy

New England Journal of Medicineという、伝統ある医学系学術雑誌において、血圧に関わる臨床試験のデータが公開され、これを分析するコンテストが実施されました。143名の研究者がこのコンテストに参加しました。
この臨床試験のデータは極めて貴重なデータで、普段であればこの臨床試験を実施したデータ取得者のもとに最低1年以上、もしくは恒久的に置かれるものでしたが、NIHと学術雑誌側の判断でデータが公開され、コンテストがなされました。
この臨床試験は2010~16年に102機関、9361名の被験者の協力を得て実施されたものでしたが、この臨床試験を行った研究チームSPRINTには、そのデータ公開の可否は聞かれませんでした。

研究チームSPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)は、2010年から、最高血圧を一定の基準内に納めることの効果に関する臨床試験を行っていました。1つの被験グループは標準の140mmHg、もう1つのグループは120mmHgまで最高血圧を下げる治療を行い、これらが比較されます。
2015年8月に、後者の方が心臓発作等の心血管による死亡率が43%低いということが見いだされ、同研究チームは3ヶ月後に、New England Journal of Medicineにその結果を速報しました。

しかし(より正確で網羅的なデータを取得するため)臨床試験はその後2016年7月まで継続され、SPRINTチームは現在、このデータを整理中です。
SPRINTチームとしては、あと最低2年はデータ解析のためにデータを手元に置けると思っていましたが、データが先行して公開されてしまったため、執筆を予定していた60の論文のうちの1/3は他の、臨床試験に関係していない研究者によって、先を越されてしまう危険に晒されています。

一方、このコンテストには143名の研究者が参加し、集中的な血圧治療の評価を患者の年齢別に分析したイスラエルClalit Research InstituteのチーフデータオフィサーNoa Daganが優勝、慢性腎疾患患者に対する血圧治療の効果を評価したボストン大学医学部生のチームが準優勝となりました。その他、4つ以上の降圧剤を使用した患者ほど死亡率が高いといった分析結果なども見いだされています。

New England Journal of Medicineは、このコンテストに使用されたデータは、臨床試験中間段階の不完全なものであり、このコンテストにより新たな研究仮説を生成するのには役に立つが、このコンテストで発表された研究成果は予備的(preliminary)なものと理解されるべきとしています。このため、最終データを用いるSPRINTチームの論文発表が完全に危機に瀕しているという訳ではないとしています。

[Nature News] (2017.3.8)
Open-data contest unearths scientific gems -- and controversy

なかなか難しいですね。研究者の立場からしたら、10年かけて集めた臨床試験のデータを論文に出来ないまま、他の研究者がこれを横取りして成果にしていくのは悔しくてしょうがないでしょうけど、一方で、患者の立場からしたら、1日でも早く自分の難病の治療に役立つ研究成果が出て欲しいですしね・・・。
また、今回のコンテストのように、100名を超える研究者が色々な角度から分析をすることで、1つの研究チームではなし得なかった新たな発見があるのも事実でしょう。また臨床試験は研究費の規模も大きいので、これを1つの研究チームに独占させるより、多くの研究者にリユースさせた方が、税金の効率利用にもつながるという論理もあります。

臨床試験データを公開するという動きは歴史があるらしく、米国ではClinicalTrials.govというサイトを立ち上げ、198カ国から179000件の臨床試験のデータが既に公開されています(2014年現在)。ただし、行われている臨床試験全体からみたら、微々たる件数しか入っていないというのが実情のようです。研究者、製薬会社、みなさん、それぞれに何かしらの言い訳を考えて、登録を回避するとか。

臨床試験データの登録率を上げるために、いくつかの法律も制定されており、2007年には、米国食品医薬品局(FDA)で認可された医薬品に関わる臨床試験データは、認可30日以内に公開されなければならない、という法が施行されています(FDA Amendments Act (FDAAA))。しかし医薬品が認可されなければ、それに関する臨床試験データは公開されません。このため、医薬品の申請時に、臨床試験データの公開を求める法案も考えられているそうです。さらに、フェーズ1の医薬品の安全性を確認する臨床試験(フェーズ2の医薬品の〈効果〉ではなく、フェーズ1の〈安全性〉)について、臨床試験の公開を求めることも検討されています。
(ここ2段落は2014年の記事をもとにしており、その後の展開がフォローできていませんので、情報が古いです)

どのような規則を作っても、臨床試験データの公開を逃れようとする研究者は後を絶たないですが、今回のように、半ば強制的に公開されてしまうと、臨床試験を10年かけてやる研究者がいなくなる懸念を、SPRINTチームのリーダーは示しています。
"Others who had nothing to do with the trial are able to publish a lot faster than we are," he says. "The return on investment is dramatically reduced for the investigators in SPRINT, no question."

船守美穂