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US foundations form research sharing group

米国の8つの財団が、学術論文や研究データの研究者・機関間における共有を促進するために、"Open Research Funders Group (ORFG)" を結成しました。これにより、発見の加速、情報格差の縮小、イノベーションと研究再現性の促進が図られることをメンバーは期待しています。
財団は以下の8財団で、これら財団の年間助成金額は合わせて50億ドルに上ります。「オープンアクセス、オープンデータ、オープンサイエンスについて、単一の声で対応したい」としています。
※ アルフレッドPスローン財団、米国心臓協会、ビル&リンダ・ゲイツ財団、ドリスデューク慈善財団、ジョンテンプルトン財団、ローラ・アンド・ジョン・アーノルド財団、オープンソサエティ財団、ロバートウッドジョンソン財団

ORFGは、ロバートウッドジョンソン財団の呼びかけにより、主に民間の財団を中心とする各種ステークホルダーからなる2015年の会合により結成されました。SPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)が事務局を務めています。
ORFGは定期的に会合を開き、以下の活動を推進していく予定です。

  • ・ オープンアクセスとオープンデータ・ポリシーのコンプライアンスをモニタリングし、インパクトを追跡するための具体的な手法の開発
  • ・ オープンネスが研究と発見を如何に加速するかを裏付ける、定性的・定量的証拠の収集
  • ・ ポリシー立案と実施に関わるベストプラクティスの特定
  • ・ 助成側と受理側双方にとって、煩雑さを最小化するワークフローを特定
  • ・ あらゆる研究面のステークホルダーと、以上を共有

つまり、これら財団がオープン化を推進していく上で検討材料となるベストプラクティス等を収集し、内外のステークホルダーとこれらを共有して相互に調整することにより、オープン化を推進する上での共通インフラを形成することを目的としています。

[Inside HigherEd] (2016.12.9)
Foundations Form Research Sharing Group

Open Research Funders Group(ORFG)- HP

SPARC, "Open Access and Research Funders: A Report on Challenges, Opportunities, and Collaboration" (2016.4)
(ORFG結成に先立ち、2015年に行われた会合の報告書)


米国において非営利の民間財団は、清教徒が米国に移住してきた当初、政府の代わりに公共整備の役割を有していたこともあり、今日においても米国の政策の進む方向性において相当の影響力を有しています。たとえば教育省やエネルギー省不要論が米国大統領選において毎回論点として挙がるように、財団は市民団体が政府以上に信頼されている場面もしばしば見受けられます。

米国高等教育への研究投資において非営利財団等による助成額は9%程度で大きいとは言えませんが、しかし連邦政府からの研究助成総額が2011年のピーク時から既に1割近く下がり、その他機関(州政府、大学、企業、財団等)による助成総額が拡大し、両者がほぼ同額になりつつある現状において、非営利財団の影響力は確実に増しています。

NCSES-NSF, "Universities Report Fourth Straight Year of Declining Federal R&D Funding in FY 2015"

また、米国の非営利財団は近年、"strategic philanthropy" というアプローチにより、財団の助成による効果を最大化するための戦略的アプローチをとるようになっています。その代表的な手法は、"財団横並びに" 同じ目標に向かって投資を行う、ということです。財団が一丸となることにより、それほど大きくない額であっても最大限の助成効果を得ることが可能となります。
また、この過程において、連邦政府や州政府、今回の場合はSPARCや大学などのステークホルダーを巻き込むことにより、全国的な運動へと展開していきます("scale up" という言葉が頻繁に使われます)。近年の財団のKWは、"social change" で、助成(というより投資)をすることにより、社会に変革できることが最大の目的です。
今回のORFG結成もこのようなアプローチに基づく動きとみられます。

このように、財団は近年、自身の投資を最大化する方向に動いているため、自らが助成した研究において、研究成果をオープンにすることにより、研究が加速したり研究の再現性が担保されたりすることは、財団の利益にも叶っています。
米国のオープンサイエンスの動きでは財団の名前を聞くことが多いですが(たとえばCenter for Open Scienceがスローン財団とアーノルド財団に助成されているなど)、このような意図を背景としていると想定されます。
アーノルド財団は「社会・政府・研究システムを強化することにより、人々の生活を向上させること」を、オープンソサエティ財団は「政府が市民に対して説明責任を果たす、活力ある民主社会を創り出す」を主目的としており、財団の使命がオープンサイエンスの理念に直結しています。


現在、科研費で「米国巨大財団が高等教育政策に及ぼす影響―コンピテンシーベースド教育の行方」といったテーマで研究をし、米国財団の性格や動きを高等教育の教育の側面から調べていたのですが、オープンサイエンスなど、研究面でも面白い動きを発見し、ラッキーと思っています。研究の幅が広がって楽しみです。(^^)/

船守美穂