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Data-Sharing may slow down under Trump administration

トランプ政権にまつわって数多ある憶測の一つにすぎないですが、米国の研究型大学連合である米国大学協会(Association of American Universities, AAU;研究大学中心であることから、科学技術関連の政策に関係することが多い)は、トランプ政権となることにより、これまで進められてきた学術論文および研究データのオープン化に関わる政策の進行が、遅れる可能性があると指摘しています。

米国では、米国大統領府の科学技術計画局(OSTP)が2013年に公的助成研究成果に関わるオープンアクセス指令を発してから、各助成機関がオープンアクセス・ポリシーを立案、採択し、2016.10段階で19の助成機関の採択がありました。
クリントン政権が成立した場合は、この政策は踏襲され、速やかに進むと想定されていましたが、トランプ政権は各種の規則(regulation)に全般的に否定的なため、研究データ共有についても政策の歩みが遅れると予想されています。
ただしAAUは、各助成機関が設けたオープンアクセス・ポリシーが相互矛盾も含むもので、研究の現場に混乱を招くと、かねてから指摘していたことから、この遅延はそれほど悪くないことであると見ています。

SPARC(Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition)のHeather Joseph会長は、そのような些細な助成機関間のポリシーの齟齬を理由に、オープンアクセスに向けての動きの歩みが緩まることを容認すべきではないとしています。
COS(Center for Open Science)の創始者であるNosek氏とSpies氏は、政策の遅延以上に、オープンアクセスに向けての国の方針が弱体化させられるか、完全に棄却される可能性を恐れています。これはオープン化の大幅な後退を意味し、助成機関間の齟齬などは些細なものであるとしています。

米国では科学研究に毎年1400億ドルが投じられており、この研究成果を全ての科学者に開放することに数十年かけて取り組んでいました。研究データについては、そのクレジットを誰とするか、またデータのフォーマットの多様性に対してどのように対処するかなど、解決すべき課題が多く、その共有がまだ十分に進んでいませんが、学術論文については完全にオープンアクセスで出版されている論文が12%(2015年段階)にまで拡大していました。

こうしたオープンアクセス化に向けての数十年来の努力が後退することが危惧されています。
その一つの兆候として、出版社主導のChorus(Clearinghouse for the Open Research of the United States)は先週、デンバー大学についても、フロリダ―大学に提供しているのと同様のクリアリングを提供すると発表しました。
フロリダ大学は、大学教員により機関リポジトリへの論文のアーカイブが進まないことから、出版社から同大学の教員が執筆した論文に関わるデータをもらい、リポジトリに入れるということをしています。

Heather Joseph会長は、オバマ政権が2013年にオープンアクセス指令を出した直後に、出版社が防衛的にこのChrousを設立したと開設しています。
COSのSpies氏は、こうした商用出版社の囲い込み作戦は憂慮すべきであるものの、COSとしては、Chorusがデータを公的に共有可能としてくれることを信じているとしています。

[Chronicle of Higher Education] (2016.11.21)
Under Trump, Scientists May Get a Break on Data-Sharing(有料記事)

[White House Blog] (2016.10.28)
Federally Funded Research Results Are Becoming More Open and Accessible

[Chronicle of Higher Education] (2016.11.21)
As an Open-Access Megajournal Cedes Some Ground, a Movement Gathers Steam(有料記事)

[CHORUS] (2016.11.16)
University of Denver Joins CHORUS in Tuning up Public Access Compliance


トランプ氏の高等教育に関わる政策については、留学生受入問題、(温暖化について懐疑的であることから)温暖化の研究が抹消させられること、教育省を閉鎖する可能性、連邦政府が行っている学生ローン事業をやめる可能性など、さまざまな憶測がなされていますが、こうした憶測とならんで、研究データ共有に関わる政策が取り上げられるのは意外に思いました。
学術成果のオープンアクセス化は、トランプ氏のスコープから外れている政策課題に思えたので、そのまま進むのかと思っていたのですが・・・。

船守美穂