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Time to rethink the institutional repository?

英国にてオープンアクセス(OA)について中心的な評論家であるRichard Poynder氏が「機関リポジトリ再考の時?」という15頁にわたる文書を発表したことから、機関リポジトリ推進側に議論を巻き起こしています。

この文書の後半6頁は、Poynder氏が自身の見解についてClifford Lynch氏(CNI, Coalition for Networked Information)に意見を求めたインタビューとなっています。また、これに加えて、オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)からはその後、正式な反論が発表されました。

ここでは、Poynder氏の見解と、COARからの反論を紹介します。

Richard Poynder(2016.9.22)
「CNIクリフォード・リンチとの対談:機関リポジトリ再考の時?」
Q&A with CNI's Clifford Lynch: Time to re-think the institutional repository?

Kathleen Shearer, Executive Director, COAR (2016.10.3)
「機関リポジトリ終焉レポートへのCOARからの反論」
COAR counters reports of repositories' demise

Poynder氏の主張は以下の通りです。

1999年10月、Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting(OAI-PMH)を作るために25名がサンタ・フェに集まった。これは、世界に点在するデジタルアーカイブについてメタデータが相互参照可能となり、第三機関がアーカイブ横断的にコンテンツを検索できるようにすることを目的としていた。この会合にはOA推進論者もおり、彼らはこのイニシアティブがgreen OAを拡大する機会と捉えた。以後機関リポジトリは拡大した。

しかし17年たった今、見てみると、OAI-PMHの目的も達せられていなければ、green OAも(商用出版社を排除するという)目的を達成していない。実際、OAI-PMHの主要人物であるHerbert Van de Sompel氏は「思ったようにはいかなかった」と最近ツイートし、Eric Van de Velde氏は「機関リポジトリが行き詰まった(at a dead end)」とブログに記述し「機関リポジトリは終わらせ、より実行力のある他の方法を導入しなければいけない(IR must be phased out)」とした。Green OAの仕組みを確立したStevan Harnad氏もOAをやめるとツイートした(I fought the fight and lost and now I've left the #OA arena)。その他何人も、OAの主要人物が同様の感想をもらしている。
実際、研究者がセルフアーカイブするというgreen OAのモデルには限界があり、機関リポジトリは半分しか埋まらず、フロリダ大学に至ってはエルゼビアにメタデータを入れてもらうこととした。Gold OAやHybrid OAが拡大し、マックスプランクはgold OAに完全に移行する検討をしている。分野別のCentralリポジトリはうまくいっているが、機関リポジトリはコンテンツの重複もあり、フルテキストがないものも多く、まったくである。

エルゼビアの近年の動きやフロリダ大学の例に見るように、機関リポジトリは営利団体により乗っ取られる可能性がある。一方では、分野別のCentralなリポジトリ(bioRxiv、SocArXiv、engRxiv、PsyArXiv)などがOSF(Open Science Framework)を利用して構築されるようになっており、非営利による反撃もなされている。
後者については、OSFを利用することで、OAI-PMHが実現しえなかったインタオペラビリティがリポジトリ間に生まれた。なお後者はプレプリントサーバーが主流であり、これがこれからの学術コミュニケーションにどのような影響を与えていくかは分からない。

Clifford Lynch氏にインタビューをしてみた。彼は私よりは楽観的ではあるが、しかし、「機関リポジトリを考案した当時から、社会環境が大きく変化した現代において、機関リポジトリのあり方を再考する必要がある」と彼も述べているのは、特筆すべきである。

※ Poynder氏はここに挙げた以上の多くの具体的事例をもって説得力のある論を展開していますが、ここでは概要のみを記しています。

これに対して、COARからは以下のような反論がなされています。

数名のOA関係者の主張により、機関リポジトリが終焉を迎えているとするのは適切ではない。各国・各地域の機関リポジトリの会合に行けば、ネットワークが拡大しているのが実感される。

機関リポジトリがそのポテンシャルを十分に発揮できていないことは事実で、著者負担のgold OAへ移行のトレンドがあることも事実である。このような現在の課題と機関リポジトリのこれからを検討するために、COARは2016年4月にWGを設置した。方向性としては、機関リポジトリが研究プロセスに、より統合されることをイメージしている。究極的に我々が求めているのは技術革新ではなく、学術コミュニケーションの革新である。

なおPoynder氏はフロリダ大学の例を持ち出しているが、一大学が全ての大学を代表することにはならないし、COARとしてはフロリダ大学のような方法は否定している。また分野別のCentralリポジトリの方が管理しやすいのは事実ではあるが、分散型の機関リポジトリの方がずっと買収・操作・失敗に遭いにくい。長期保存とアクセスに肝要な、バックアップと重複を保証する。また多くはフルテキストであり、研究にリユースされ得るものとなっている。

アフリカの格言で「速く行きたいのなら一人で行け。遠くに行きたいのなら、一緒に行け」というのがある。オープンでコミュニティベースの学術コミュニケーションに向けて、一緒にやっていこうではないか!

機関リポジトリがすぐすぐになくなるものではないとは思いますが、一方で、gold OAや助成機関の各種mandateが出てきた現状において、「機関リポジトリのあり方を再考する時」である、という点では両者一致しているようです。

船守美穂