日本語

Web of ScienceとPablonsの融合

Web of Science(WoS)のオーナー会社であるClarivate Analytics社が、論文査読の記録をSNSサイトとして集めているPablons社(ニュージーランド)を買収したことが、2017.6.1付けで発表されました。

WoSは、論文の書誌情報を整理し、これを用いて論文の検索サービスや研究評価(引用数、H-index等)の情報を提供しています。
Pablons社は、これまで報いられることのなかった、しかし科学の根幹を支える、「論文査読(ピアレビュー)」について、研究者が査読の実績や査読内容を、学術雑誌や論文著者が許容する範囲で、登録できるPablons.comというサイトを運営しています。
研究者や学術雑誌のエディターはこのサイトを通じて、これまで評価されることのなかった査読実績を、自身の昇進等においてもアピールすることができます。学術出版社は、エディトリアル管理システムと統合されたこのサイトを通じて、学術雑誌のポリシーに適合した査読者を探すことができます。大学等研究機関は、機関に所属する研究者の査読実績から、同機関がアカデミアにおいて及ぼしている影響をアピールすることができます。
Pablonsにはすでに15万名以上の研究者と、80万件以上の査読が登録されています。Pablonsはそのほか、査読の方法に関するトレーニングも提供しています。
https://publons.com/home/

WoSとPablonsという組合せは希有絶妙で、WoSの著者の論文執筆実績に関わる情報と、Pablonsの研究者の査読実績に関わる情報を組み合わせることによって、出版社が査読者を探し、スクリーニングし、連絡を取るための、新たな仕組みが可能となるため、これに関わる対出版社への有償サービスが生まれる可能性があります。

論文の査読は、エディターが自身の知り合いに頼むため、研究者の2割のみが査読を行っているといった調査結果もあり、こうしたサービスを通して、査読負荷を研究者間で分散させられる可能性があります。
また、独立した会社としてサービスを継続運用するPablonsは、偽の査読を防止することにも尽力したいとしています。自身や研究仲間を査読者候補として挙げることにより、偽の査読で論文受理に至っていた事例が発覚し、数百の論文が撤回されるという事件が起きています。Pablonsは電子メールを通じて独自に研究者を認証しており、こうした査読不正を防止できます。

Clarivate Analytics社は、8ヶ月前に創設されたばかりの企業です。WoSを運用していたトムソン・ロイター社が昨年7月、同社の知的財産と学術部門を、2つの株式ファンドに35.5億ドルで売却しました。これら株式ファンドは昨年10月、WoSや特許情報サービス、学術出版社が査読および出版プロセスを管理するためのScholarOneというシステムを運用する会社として、Clarivate社という企業名を公表しました。

これら株式ファンドは、迅速に利益を出すためにサービスを切り売りするだろうと臆されていましたが、そうしなかったということは、学術および研究ビジネスに顕著な成長が見込まれると判断したと言われています。
Pablonsは、Clarivate社による学術情報流通改革の中心にあることとなります。

[Nature] (2017.6.1)
Web of Science owner buys up booming peer-review platform

皆さんはPablonsをご存じだったでしょうか?日本の研究者もそこそこ登録されているようですが(総ヒット件数が出ないで正確に言えませんが500名以上はいます)、たとえば東京大学に限定して検索すると61名となり、かつ外国の方も一定数いるので、日本ではそれほど利用されていないのかもしれません。

欧米では投稿される論文数が加速的に伸び、これに従って査読数も膨大となっています。ある調査によると、医学の分野では2015年に110万点の論文が投稿され、これらに複数の査読者がつき、また複数回のラウンド査読がなされることを想定すると、900万回査読がなされ、これらは6340万時間を要します。
研究者全員が論文を執筆したりする訳ではないので、査読者は常に十分足りているという指摘もありますが、一方で、査読のできる研究者、あるいはエディターの知り合いで査読を依頼する研究者は限られているため、査読者は疲弊しており、査読を断るケースも多いので、学術情報流通の会議では常に、査読システムをどのように維持すべきかということが議論に上がります。このため一度査読をした内容は、同論文が棄却され別の雑誌に投稿された場合も使えるようにするという「カスケード査読」であったり、「オープン査読」であったり、出版までの時間短縮のためとりあえず出版してしまい、後から査読を付す「ポストパブリケーション査読」などが試行されています。

そのような中でのWoSとPablonsの融合なので、論文の査読というシステムが大きく変わる可能性があります。
Research GateやPablons、出たての頃はWikipediaもですが、日本人はこうしたネット上の集合知やSNSに対して慎重なことが多いですが、記事にあるような発展可能性も念頭にPablonsとの付き合い方を考えた方が良いのかもしれません。

船守美穂